在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

西暦17XX年、エボラ出血熱、ニューオリンズに着岸す。

エボラは、どうやらアフリカだけの話ではなくなって、ヨーロッパとアメリカまで拡散したようだ。

こうなればアジア、東アジアも時間の問題かもしれない。なにしろ飛行機は24時間世界中を飛び回っているのだから。

 

しかし、もしも、イスラム国が大暴れして大混乱の中東イラク・シリア地域に、エボラが入ったら、どうするんだろう? 

 21世紀に誕生した新しいカリフは、どう考えても公衆衛生を徹底するほどの統治能力も責任意識も無いだろう。戦争&エボラ、となったら誰も中東での拡散を止められない。

サウジアラビア、イラン、トルコも危険にさらされれば、いやなによりあのイスラエルにエボラが迫れば、冗談ヌキで核ミサイルで「加熱殺菌消毒」する乱暴なオプションを取りかねない。

 

さらに、もしも、エボラ出血熱ウイルスが、21世紀ではなく18世紀に登場してたら?

ウイルスにとっては、それくらいのタイムラグは大した話ではなかろう。

 

18世紀の大西洋は「三角貿易」の時代である。

イギリスを始めとするヨーロッパは、中南米や北米が産出する砂糖や綿花が欲しい。
そこでイギリスは、まず、アフリカに武器や綿製品やラム酒を売りに行く。
アフリカはイギリスに代金の支払う代わりに、中南米や北米へ黒人奴隷を輸出する。
中南米や北米は、イギリスへの砂糖や綿花の輸出急増で労働力が欲しかったので、黒人奴隷を買う。
そして黒人奴隷の生産する砂糖や綿花がイギリスやヨーロッパに流れる。

 

このサイクルによって膨大な富がイギリスに蓄積され、それを元手に産業革命が発生する。
産業革命前まで、世界一の金持ち国家は、おそらく明国・清国つまり支那だったのである。
産業革命は高性能な武器や艦船を生産し、その圧倒的な軍事力でイギリスは世界を植民地化する。

その世界システム=近代が、日本に明治維新をもたらしたし、21世紀現在の、欧米が先進国、アジアアフリカが後進国、という世界情勢の基礎となっている。

 

しかし、三角貿易全盛期に、アフリカ西海岸にエボラ出血熱が発生していたら?

 

、、、ある日、アメリカのメキシコ湾・奴隷貿易で栄える港町ニューオリンズ沖を漂流するイギリス国籍の奴隷運搬船が発見される。

繋留してみると、奴隷はおろか、船員から船長にいたるまで、全員が血まみれで死んでいた。奴隷の反乱でも起こったのか?

ニューオリンズの市民は、白人の遺体はキリスト教徒として丁寧に埋葬し、黒人の死体はそのままニューオリンズ湾に捨てて魚のエサとし、船に付属の金目の物は市民の競売にかけられた。

 

その数週間後、ニューオリンズの街に「異変」が発生する。

その「異変」は南部一帯に恐怖の噂話として広まったが、その時にはすでに売買が完了した、なぜかそろって「風邪気味」の新しい奴隷たちが綿花畑に到着した後だった。

「異変」は人種を選ばなかった。最初は到着したばかりの新入り奴隷、次が古株の奴隷、そして奴隷運搬の商人たち、最後は「風邪と共に去りぬ」に登場しそうな南部のお嬢さんたちまでも。

 

同じ時期、同じような幽霊船が漂着したカリブ諸島のサトウキビ畑で、そして南米の鉱山で、同じ「異変」が始まっていた。


そして新大陸大混乱のニュースと共に、黒人奴隷が作った砂糖や綿花と、そして「見えない何か」を満載した貿易船が、イギリスの貿易港、200年後にビートルズが誕生する可能性もあったかもしれない、リバプールに着岸する。

数年後、新大陸とヨーロッパが血まみれの死体で覆われた。

 

三角貿易が混乱すれば産業革命もない。

産業革命が無ければ、インドも支那も日本も黒船を見なくて済んだかもしれない。

南部がエボラ出血熱で覆われれば、アメリカ合衆国だってその歴史が変わっていただろう。南北戦争も無かったかもしれないが、国内の発展も困難だっただろう。ペリーが浦賀沖に来るのはかなり難しくなったのである。

 

清国はアヘンの味を知らず、

ロシアはシベリア遠征どころではなく、

オスマントルコは死体で一杯のバルカン半島から撤退し、

徳川幕府は構造不況にあえぎながらも、第20代将軍の御世を向かえる。