在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

《ファシズム映画列伝》「ヒトラー ~最期の12日間~」その1~「私は総統に忠誠を誓った」


ヒトラー ~最期の12日間~(字幕版)(プレビュー)

 

本日、ニコニコ動画で無料放送があるらしい。

快適に視聴できるかどうか知らないが、未見の方はよろしければ。

 

live.nicovideo.jp

 

昔々、郵政民営化のころ、反対派は小泉進次郎のお父さんを「コイズミ・ファシズム」と批判した。

 

ファシズムは何でも国家が口を出す「大きな政府」だ。

郵政民営化は「小さな政府」である。正反対である。

金持ちは勝手にやれ、貧乏人も勝手にやれ、という小泉ネオリベ路線の、どこら辺が、国民・民族の一体化を推進するファシズムになるのか?意味不明だったが、

 

その小泉元首相が、東日本大震災後に「反原発」を言い出したら、数年前まで「コイズミ・ファシズム」と罵っていた連中が、手の平を返して、小泉反原発を称賛し始めたのには、予想はしていたものの、ヤレヤレであった(笑)。

 

郵政民営化ファシズムであり、小泉お父さんはファシストなのだ。

だったら、そのファシストが主張する反原発だってファシズムじゃないのか?

 

じゃないのなら、反原発運動の前に、「郵政民営化ごときチンケなネオリベ政策に、ファシズムなんて大げさな悪口を浴びせた、数年前の私たちは間違っておりました。申し訳ない」と一言あるべきだろう。

 

で、無反省のまま、今度は、アベノミクス&安保法案の安倍ちゃんに対して、ファシズムのレッテルを張る。

もし、将来、安倍ちゃん以上に厄介な政治家が出てきたら(おそらく確実に出てくる)、彼または彼女をナンと表現するつもりなのか? スターリニストか?

 

安易に、自分の嫌いな政治にファシズムとレッテルを張るのは、犯罪や不祥事が起こるたびに「在日」と言い出す連中と、全く同等のレベルである。

何でもかんでも、相手に向かってファシズム!と名付ける連中は、ファシズムを恐れているのではなく、逆に、ファシズムをナメているのだ。

 

ファシズムは、お前の母ちゃんデベソ、ではない。 

ファシズム、特にナチズムは、ホンキで、マジで、恐ろしいのだ。

 

現時点で人類最大の戦争は第2次世界大戦。

その第2次世界大戦の、海戦のクライマックスが太平洋上の日米海戦だとすれば、陸戦の集大成は独ソ戦である。

双方、当時、地上最強と思われた横綱同士のガチンコ大一番。

ロシア VS ドイツ 

スターリン VS ヒトラー
ボリシェヴィキ VS ナチ
赤軍 VS 国防軍+親衛隊

T-34 VS ティーゲル

まさに東西2大スター夢の競演。
東映時代劇でいえば片岡千恵蔵VS市川右太衛門の新春映画だ(笑)。

 

映画「ヒトラー ~最期の12日間~」が描くのは、その独ソ戦の千秋楽・結びの一番・ベルリン攻防戦、この世でロシア人とドイツ人以外には不可能だった、人類史上空前絶後の地上戦の最後の最後だ。

 

ロシア伝統の砲兵大量投入メッタ打ちで、帝都ベルリンを「前衛芸術野外展覧会」に変えるソ連
ベルリンの元・繁華街の路上では、戦車の最高傑作T-34相手に、パンツァーファウストをぶち込もうとするヒトラーユーゲントの少年少女。

そう。われわれ大日本帝国が最後の最後にビビって回避してしまった「本土決戦」を、ドイツ人はちゃんと実行したのだ。ナチズムに「いちばん長い日」なんていう逃げ口上はない。

しかも相手は、優しいアメリカ人じゃなくて、あの悪逆非道ロシア人だ。

 

ベルリン総統地下官房に籠るヒトラーとナチ党幹部、国防軍首脳。

キロ単位どころかメートル単位で近づいてくる赤軍
すでに、一の子分ヒムラーは逃亡し、二の子分ゲーリングも裏切り、政治責任者としてのナチ党は一部を除いてほぼ崩壊。
戦況は絶望的、敗北は決定的、滅亡は時間の問題、の状況下で、誰の目から見ても狂気におちいり正常な判断能力を失っている最高指導者・総統閣下。

 

元を正せば、彼はドイツ伝来の王侯貴族でもなんでもない。ヒトラー天皇陛下や女王陛下ではないのだ。

オーストリア生まれの貧乏人で、絵描きになれず乞食同然の生活を送り、ルサンチマンとまれにみる幸運でドイツ南部バイエルンからベルリンへやってきた、インチキ選挙の成り上がり政治屋に対して、

世界最高水準の軍事教育を受けてきたドイツ国防軍の指揮官や参謀たちプロイセン人は、何故なんだか最後の最後まで裏切らない。

しんどい思いをするくらいなら、その気になれば、この哀れなオーストリア人を射殺して「ナチは終わった。降伏する」といえば済む話だ。なぜ、その簡単な手段を選ばない? 

その後に過酷なロシア・ボリシェヴィキの支配が待っているにしても。

 

最期まで総統に仕え続けるドイツ国防軍そして親衛隊の連中は、

愚鈍なのか?精神錯乱か? 否。
ロシア人たちのリンチが怖いのか? 否。
この期に及んで、まだナチズム=国家社会主義イデオロギーを信奉していたのか? これもおそらく否。


劇中「なぜベルリンから逃げないのだ?」と尋ねられた、煤と硝煙と血で汚れたドイツ将校曰く、

「私は総統に忠誠を誓ったのだ。」

耳ある者よ、目ある者よ、この一言に震えよ。

 

そう。彼は、自分の意思で宣誓したから、逃げないのだ。

この将校は、「ヒトラーに忠実」なのではなく、「過去における自分の言葉に忠実」なのだ。

自分自身にウソを付かない。これが「近代人」というものだ。


ひるがえって、大日本帝国軍人たちは、なぜ、どうして、何が理由で、天皇陛下に忠実だったのか? 

それは、彼らが、たまたま、日本に生まれたから、大和民族だから、「自動的に」「自然に」天皇陛下に忠実なのだ。

大日本帝国軍人というポジションは、自分で選んだ境遇ではない。彼らは「自分の判断で」「自分の言葉で」天皇陛下に忠誠を誓ったことなんか、おそらく一度も無い。

 

日本軍人には

「なぜ、このオレが、日本政府のために戦わねばならないのか?、天皇陛下のために戦う義務があるのか?」 

 という思想的葛藤はありえない。日本に生まれたら、自然で当たり前だからだ。

 

しかしプロイセン生まれのドイツ軍人は

「なぜ、このオレが、国家社会主義ドイツ労働者党のために戦わねばならないのか?、このバイエルン訛りのオーストリア人伍長のために戦う義務があるのか?」

という思想的葛藤の果てに、「自分の意思」で決断し宣誓したのだ。

 

武士道の無批判な美化は完全なウソっぱちだと思うが(笑)、

もしも理想のサムライが存在するのならば、

その美名は、特攻隊の帝国陸海軍ではなく、

ワイマール民主主義体制下で、自分でこの地獄道を選び取り、激変する状況からではなく、自分で下した決断から、最後まで逃げなかった、ベルリン攻防戦のナチスドイツ将兵およびヒトラーユーゲントの少年少女にこそふさわしい。

 


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ファシズム、中でもその【極北】に位置するドイツ・ナチズムは、温帯モンスーン気候で1年の半分を半袖短パンで暮らすようなユルユル状態の日本人や琉球人には、到底実現不可能な「鋼鉄の政治思想」である。 

 

英国政治~「ネイション」とは何ぞや?~スコットランド民族党VS国家社会主義ドイツ労働者党。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

同じホモ・サピエンスでも、自分で自分を選び取った「近代のサル」と、状況に流されるだけの「前近代のサル」は異なる。生物学的に一緒でも、思想的には雲泥の差がある。

 

小泉さんや、安倍ちゃん、そしてその支持者を、ファシスト呼ばわりなんて、圧倒的なまでに「近代人」であったベルリン攻防戦のドイツ将兵に対する侮辱だ。

 

《ファシズム映画列伝》「ヒトラー ~最期の12日間~」その2~「総統閣下、貴方はアーリア人ですか?」 - 在日琉球人の王政復古日記

 

《ファシズム映画列伝》「ヒトラー ~最期の12日間~」その3~失われた「マックス・ラーベの20世紀ドイツ」。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

に続く。

 

最期の12日間