2014年10月スタート、BSジャパン「土曜の若大将」も3週目。
10/4(土)スタート「土曜の若大将」~シリーズ全作見せます! 加山雄三大いに語る:2014年10月1日(水)夜11時30分|BSジャパン
日本がどんどん「現在」になっていく。
同じく植木等の「無責任」「日本一」シリーズ、
森繁久彌の「社長」シリーズ、
と並ぶ、戦後日本の保守本流「親米保守」思想=自由市場経済の勝利を謳い上げた「政治映画」である。
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おなじみモダンなテイスト・東宝女優陣は、
兄貴を出し抜いて店を継ぐ話になっている、なんだかんだいって、相変わらず自分の利益に忠実な(笑)チャッカリ妹・中真千子。
気品溢れる大根女優(笑)藤山陽子は、お嬢様レベルが上がり続け、今回ついには宮様のお后候補である(笑)。1959年の御成婚前後の日本を席巻した皇后美智子人気、世に言う「ミッチーブーム」が映画の中にまで押し寄せたわけだ。
北あけみは相変わらずお色気担当。平成のグラビアアイドルに比べれば、凹凸に乏しいボディーラインだが、当時としてはあれでグラマーだったのである。当時の日本でEカップだのGカップだのがいたら、お色気どころか一種の「奇形」である(笑)。日本の食糧事情と栄養状態がこういう場面で判る。
団令子はお休みで、代わりに女子大生担当は青大将の従兄弟役で田村奈巳。
そして、ヒロイン・星由里子は、銀座のスポーツショップ店員で「オート三輪」運転中に「カミナリ族」に絡まれる。
青大将のアメ車のオープンカー、ヒロインのオート三輪、カミナリ族のバイク。
高度経済成長が日本にモータリゼーションの波を呼び寄せる初期の風景だ。まだ、その後世界を制覇する日本車の陰は薄い。
「カミナリ族」は、後に暴走族に発展する。戦後日本のサブカルチャー「ヤンキー」の源流の一つである。まだ特攻服は着ていない。
「日本一の若大将」で、政治的に、個人的に、一番印象的だったのは、若大将の妹のお見合いエピソードである。
世の中に「若大将」好きな邦画マニアはたくさんいると思うが、このシーンに注目したのは、映画評論家も含めて、おそらく「私だけ」だと思う(笑)。
このエピソード、映画のストーリーからいえば枝葉の話でどうでもいいパートなのだが、ここに今の日本に通じるキーワードが出てくる 。
若大将の実家・麻布の老舗すき焼き屋「田能久」の箱入り娘ともなれば、中産階級のお嬢さんだから、お見合い相手もそれ相応の高スペックとなる。
ただし、このお見合い自体はすぐご破算になるし、映画の脚本としては、相手が誰でも、どんな職業でも、たいした意味はない。別に「会社のオーナーの息子」でも「東京の料亭の跡取り息子」でも、役人にしても「大蔵省の若手」でもいいのに、なぜか相手が「外交官のタマゴ」なのである。この外交官という設定に映画上の積極的な意味はまったくない。
しかし、ここでのコメディトークが平成的にはビンビンくるのだ(笑)。
若大将の親父は娘と官僚との見合いに乗り気だ。なんとなく消極的な娘に対して「外交官と結婚したら外国へ行けるぞ」とメリットを強調する。
ここで親父が(当時の日本人が)想定している「外国」とは、憧れのアメリカかヨーロッパ(当選西側)、ちょっと外れても(当時はまだ移民の受け入れ先だった)ブラジルなどの南米である。
1962年の日本にとって、アジアなんて「外国」のカテゴリーに入ってないのだ。
もちろん戦前戦中は戦争でアジア諸国と大いに関わったし、1990年以降アジアの経済発展によって支那韓国、東南アジアは無視できない存在となった。しかし当時はちょうどエアポケット、日本人がアジアを忘れようとしていた時代なのである。
かろうじての例外は、香港くらいだろう。
若大将の親父さん「外交官ともなれば外国へ赴任するんでしょうな」とワクワクしながら話題を振る。
見合い相手の外交官の卵は「はい、ソウルへ」と答える。
勝手にハワイ、ロンドン、香港みたいな回答を期待していた親父さん「・・・ソウル?」と、一瞬どこの国なのか思いつかない。
外交官の卵「ええ韓国の」と追加説明。
卵の母親も「まあ、公使館ができてからの話ですが」とフォロー。
すると親父さん、何とも言えないションボリとした顔になって「はあ、韓国ですか」と消え入るような声になる(笑)。
1962年当時の中年男性なんだから、「ソウル」という都市名に慣れてないこともある。「ケイジョウ(京城)」ならばピンと来ただろう。
しかしなにより当時の日本において「韓国」のイメージは最悪だったのである。
もちろん、戦前の植民地というイメージもあるし、戦前の東京にいた貧乏な朝鮮人労働者のイメージ、そして終戦直後の闇市を大きな顔して歩いていた三国人のイメージも残っていた時代だ。ハッキリ言えば「朝鮮人は日本人より劣っている」という意識はあったのである。それは平成の今でも鮮明だ。
さらに1950年代の「朝鮮動乱」。日本人がもう忘れようとしていた地名を嫌でも思い出させるニュースであった。
そして1962年といえば、今の朴姐さんの偉大な父・朴正煕が軍事クーデタで全権を掌握しつつあった時期だ。
終戦時の三国人の思い出だけでもイメージが悪いのに、悲惨な内戦に、さらに軍人が威張る国。当時の日本人は自分たちの戦争体験を通じて「軍人が政治を握る」ことの不愉快さを肌で知っていた世代だ。
さらに日韓基本条約は1965年だから、当時はまだ日韓関係が正常化していない。だからこそ「公使館ができてから」というセリフも出てくる。
想像だが、おそらく映画の脚本を練っている最中に、新聞では「韓国で軍事クーデタ」「朴少将が全権掌握」みないな見出しが踊っていて、それを取り入れたのだろう。何でもよかったのだ。脚本家は大した意味なんか考えてない。
お見合いシーンは映画ではこれだけの話で、時間としては数分で終わる。
映画の主題でも重要エピソードでもない。ハッキリ韓国を嫌悪する演出も、馬鹿にする演技もない。
しかし当時の日本に「韓国へ赴任する」ということが、ブラックジョークになるようなイメージがあったからこそ、喜劇として成立しているのだ。
こういう無意識にこそ、政治が露出する。
そして、もう1人、こっちは私の予断と偏見をかなり含むが、おそらく朝鮮半島絡みの人物が登場する。
シリーズ映画ではよくある話だが、レギュラーキャラの性格変わったりする。
主人公の若大将・加山雄三のライバルはシリーズを通して青大将・田中邦衛だが、シリーズが進むと、青大将はどんどんコミカルになり、若大将の敵対者ではなくパートナー(ただし迷惑をかける)の役回りになっていく。
そのため、青大将の代わりに、もっと極悪な敵対者が登場するのだが、それが「日本一の若大将」では堺左千夫演じる金持ちのドラ息子(青大将ならぬ)「赤マムシ」だ。
で、彼の役名がなんと「張山」なのである。
もちろん堺左千夫の演技にエスニシティを表現してる部分は無いのだが、この悪役への命名が脚本の偶然とは思えない。
「在特会」マインドは半世紀前からあった。21世紀になって生まれた話ではないのである。
そして、さらにさかのぼって、若大将のお父さんの時代から、日本には「朝鮮」が存在したのである。
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