在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

映画「クィーン」~ダイアナ戦争~エリザベス女王VS労働党首相ブレア。

英国王室は、明治政府が近代天皇制の手本にした対象だが、王室と政府の緊張感は、日本の皇室と政府とは比較にならないほど「生臭い」。

読売の元記事はもう消えてるけど、2011年4月のニュース。

 

Ceron.jp - ブラウン、ブレア元首相は結婚式に招かれず : 国際 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 29日に行われる英国のチャールズ皇太子の長男で王位継承順位2位のウィリアム王子(28)とキャサリン(愛称ケイト)・ミドルトンさん(29)の結婚式には、英国の顔だったブラウン、ブレアの両首相経験者は招かれなかった。 
 王室報道官によると、チャールズ皇太子と故ダイアナ元妃の式と異なり、今回の式は「私的なもの」。首相経験者を必ず招待する慣習も王室にはないという。一方、保守党のサッチャー、メージャー両元首相や労働党ミリバンド現党首には招待状が送られた。 
 ブレア氏については、首相在任中の2002年、エリザベス皇太后の葬儀の段取りなどをめぐって王室との関係が悪化したとの指摘がある。ブレア氏は、訪問先のコロンビアで現地テレビのインタビューに応じ、「(招待されなかったことに)全くショックは受けていない。お二人の末永い幸せを願うだけです」と淡々と語った。 

 

エリザベス女王とブレア元首相には、感情的、政治的対立があった。

しかし当時の労働党党首も招待してるんで、日本人が思いつくような、単純な「右翼VS左翼」の対立ではない。

女王陛下と対立しても長期政権を確立できたブレアも凄いが、

元首相相手に数年越しの意趣返しをする女王も凄いもんだ。

 

2人の戦いは、未来の英国国王の母親を巡る、イギリスの「国体」を揺るがしかねない「戦争」だったのだ。

  


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元皇太子妃ダイアナの死を巡る「王室VS政権」という、日本では絶対に描けない(笑)、リアルかつギリギリの政治闘争が描かれた秀逸な政治映画である。

ブレアが労働党なんで「王室VS左翼」みたいなとらえ方をされそうだが、そういう面も皆無ではないが、それは大した要素ではなく、ダイアナの死は、「王室」と「政権」と「世論=国民」の三つ巴の権力闘争だった。

 

世紀の結婚といわれながら、その後夫婦の不仲と不倫から離婚、その後も騒動を連発し、英国王室を引っ掻き回した「プリンセス・オブ・ウェールズ」が、交際中のイスラム教徒の大富豪と自動車事故で死亡する。

 

もしも、あの事故が無ければ、いまや子供もいる英国王位継承権者は、イスラムの「異父兄弟」を持つ可能性があったのだ。

未来の英国国教会の代表者がイスラムの兄弟を持つ、、、英国王室からすれば、彼女は常に頭痛のタネだった。

 

彼女の突然の死で、頭痛のタネが消えてホッとしたかと思ったら、そこから始まったのが、英国を越えて全世界的な「ダイアナ・フィーバー」であった。世論は「ダイアナ可哀想」「ダイアナはピープルズ・プリンセス」つまり「ダイアナの敵は世界の敵」状態となった。

 

すでに離婚した無関係な「民間人の死」として扱いたい王室。 

今でも英国の、いや「世界の王女」として熱狂する国民世論。

 

とうとう王室と世論の間に亀裂が生じる。「ダイアナに冷たい王室は国民の敵」という風潮になり始める。 

 

嘆き悲しむイギリス国民や世界中から追悼に集まる大衆をテレビで見て、女王の旦那エジンバラ公があきれ気味につぶやく。

「どうして、よくも知らない人間のためにあんなに泣けるんだ? 彼らは、あの女の、いったい何を知っているというのだ?」 

大衆民主主義が衆愚に落ちる瞬間を批判する王族が素晴らしい(笑)。 

 

そこに登場するのが総選挙に勝った労働党ブレア。

世論を敵に回して王室に付くか? 王室を敵に回して世論に付くか?
悩みながらも世論で首相になったブレアは後者を選んだ。

「人民のプリンセス」の味方・ブレアの支持率は急上昇し、ダイアナに冷淡な王室の人気は急落し危機に陥る。

ただし世論べったりで王室を敵に回したままでも政権は持たない。ブレアにとっては世論と王室の両方を味方に付ける、つまり「ダイアナ(世論)とエリザベス(王室)の和解(妥協)」以外に、政権を維持する道はないのだ。 

 

そこからブレアは、あくまでダイアナを拒否する、気高き女王に対して、彼女を「王女として」葬儀するように、あらゆる手段を使って懐柔していく。世論の圧力はますます高まる。

 

ついに「生けるクィーン」は「死せる元プリンセス」に屈する。

 

世論を背景に女王との闘争に勝利したブレアには長期政権の道が開ける。

そしてその先に、911、あのブッシュの「イラク戦争」が待っていた。

 

《911映画》「ラブ・アクチュアリー」~アルカイダ、ブッシュ、ブレアを批判するイギリスのリベラル。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

ブレアは労働党とはいえリベラル右派で王室に敬意を持っていたが、彼の奥さんがカトリック教徒で反王室論者だった。

これまた日本人にはなじみはないが、イギリス王室とローマ法王カトリックは基本的に対立している。

 

《オレンジのプロテスタント》VS《緑のカトリック》~雅子皇太子妃殿下オランダ国王夫妻お出迎え。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

イギリスにおけるカトリックというのは、敵同士なのだが、同居している。 

結婚式があったのが「ウェストミンスター寺院」。宗派は当然ながら英国国教会
それと別に「ウェストミンスター大聖堂」というのがあって、こっちはカトリック

 

実はブレアも、首相を辞任した後、国教会からカトリックに改宗している。

日本では、神道信者で無くクリシュチャンでも普通に首相になれるが、「英国首相が国教会信徒ではない」というのはかなり問題なのだ。だからブレアもわざわざ首相を辞めてから改宗した。しかし国教会を裏切ったことに変わりはない。 

こっちの宗教問題も、女王とブレアの間に影を落としているのだろう。

 

日本の皇室を考える上でも、

何かと賛否両論(笑)の雅子妃殿下を考える上でも、

大変興味深い政治映画である。