在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

ハンフリー・ボガート「カサブランカ」VSライザ・ミネリ「キャバレー」~モロッコに響くフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」

フランス国歌「ラ・マルセイエーズ」が出てくる映画、といえば、これが有名だ。

 

第2次境世界大戦勃発の1941年。舞台は、ナチス・ドイツの影響下にあるアフリカのフランス領モロッコ

フランス人を初めとしたヨーロッパからの政治難民たちは、中立国亡命のためにこの地に集まっていた。

アメリカ人・ハンフリー・ボガートが経営している酒場には、政治難民たちも、ドイツ軍も、集まってくる。

勝ちっぱなしで我が物顔のドイツ軍がドイツの愛国歌「ラインの守り」を合唱すると、ボギーはフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」を演奏させ、店内のフランス人たちが歌い出し、ドイツ軍の歌をかき消してしまう。

 

皆さんも名前くらいは聞いたことはあるだろう。

アメリカ映画「カサブランカ」の名シーンである。

 


La Marseillaise Casablanca

   

 2015年、イスラム国ISISによるフランス・パリ同時多発テロ

フランス議会で、犠牲者追悼の直後、自然発生的にラ・マルセイエーズ」を合唱するシーン。

 


Intense émotion à l'Assemblée: minute de silence et Marseillaise

 

いつか見た光景である。

 

2001年、オサマ・ビン・ラディンによるアメリ同時多発テロ

アメリカ議会が、追悼の直後、自然発生的にアメリカの愛国歌ゴッド・ブレス・アメリカ」を合唱するシーン。

 


Congress Sings God Bless America on 9/11/01

 

1991年、フセインイラクによるクウェート侵攻に端を発する湾岸戦争当時。

アメリNFLスーパーボウルでの、ホイットニー・ヒューストンアメリカ国歌「星条旗を永遠なれ」斉唱。

 


Whitney Houston - Star Spangled Banner

 

よくよく考えれば、とんでもないシーンである。

いくら国民的人気のアメリカンフットボールの最高峰とはいえ、NFLは政府機関ではなく、しょせんは民間の商売だ。その商売に、アメリカ軍が戦闘機まで飛ばして全面協力しているのである。アメリカの政府と民間の境目はどこにあるのか?

 

ライザ・ミネリ、といっても、平成の皆さんはピンと来ないだろう。

でも、そのほうが逆に感動的かもしれない。

私はこういうタイプの名画は苦手で(笑)、歌は門外漢である。

しかし野暮な私でも解る、この、圧倒的な歌唱力を見よ(聴け)。

 


Cabaret, Liza Minnelli

 

これもまた、アメリカ映画の名作「キャバレー」。

舞台は1930年代、ナチス台頭前夜のベルリン。混乱と、退廃と、不気味な予感が漂う街で、キャバレー・キットカットクラブからは今日も歌声が聞こえている。

 

この映画には、「カサブランカ」と全く同じ合唱シーンがある。

 


Tomorrow belongs to me! (With Lyrics)

 

最も重要なカットは、合唱せず、起立せず、不安そうに周りを見渡す、貧相なメガネの老人である。

 

メガネの老人はおそらくユダヤ人なのだ。

 

さて、

ドイツ軍の「ラインの守り」と、
フランスの「ラ・マルセイエーズ」と、
アメリカの「ゴッド・ブレス・アメリカと、
ホイットニー・ヒューストンの「星条旗よ永遠なれと、
ナチスヒトラーユーゲントの「未来は私のために」と、
いったい、ナニが、どう違うというのか?

 

歌が人間を魅了する。歌が人間を鼓舞する。同じなのである。

ある歌は「ナショナリズムの共感」を表現し、

ある歌は「ナショナリズムの傲慢」を表現している。 

ある歌はナショナリズムの美しさ」を表現し、

ある歌はナショナリズムの悪魔性」を表現している。

 

しかし、気が付きにくいが、もっと重要なのは、映画「カサブランカ」の舞台だ。

そこはフランスのパリではない。アフリカのモロッコなのである。

 

たしかに、フランス本国は、ナチス・ドイツが無理やり占領している。

しかし、モロッコだって、フランスが無理やり占領した植民地なのだ。

フランス本国から見れば被害者のフランス人は、

植民地モロッコから見れば加害者のフランス人なのだ。

フランス本国と植民地モロッコで、フランス人の立場は全くサカサマに逆転し、入れ子構造になっているのである。

映画では、ナチス・ドイツの圧政に抗うフランス人たちが活躍する。

しかし、フランスの圧政に抗うロッコ人は、スクリーンのどこにいるのか?

フランスに支配されているモロッコ人は、映画の中では、役名すらろくにない、セリフさえロクにない、恋もしないし、戦いもしない、歌すら歌わない、まるで人間の意思を持たない、ただの背景の一部に過ぎない。

 

ラ・マルセイエーズ」を合唱する、あの感動的なシーンは、自分たちが暴力で支配した植民地のど真ん中で、別の暴力で支配された自分たちの祖国の独立回復へ想いを込めて、宗主国の国歌を大合唱しているのである。 

「ラインの守り」が、敗者フランス人をコケにしたドイツ人の傲慢だとすれば、

ラ・マルセイエーズ」が、敗者モロッコ人の痛みに鈍感なフランス人の傲慢ではないのか?

そして、歌すら歌わせてもらえないモロッコ人たちは当然、イスラムなのだ。

 

この、アジア人である我々ですら、ウッカリ気が付かないまま、「白人の気分」になって感動してしまう、「巧妙」にして「鈍感」なシステムこそが、ヨーロッパとアメリカの近代であり、そして、イスラム教徒(だけでなく、アジア人、アフリカ人)の、ここ最近、約300年の歴史なのだ。

 

もし、あなたが「カサブランカ」のモロッコ人ならば、このフランス人の「ラ・マルセイエーズ」を、どういう気持ちで聞けばイイのか?

それは、おそらく、「キャバレー」のビアガーデンでヒトラーユーゲントの歌を聞かされる貧相なメガネの老人と同じ気持ちだろう。

 

そして、その後に待っている苛烈な運命に、あの貧相なメガネの老人が、運よく生き延びたとすれば、彼の子か、孫が、今度は、イスラムパレスチナ人の土地を強奪するのである。

 

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