~小倉生まれでぇ 玄海育ちぃ 口も荒いが 気も荒いぃ~
~無法一代 涙を捨てて 度胸千両で 生きる身の~
~男一代 無法松~
コレが北九州のテーマソングである。
花魁&ヤンキー成人式を生んだ風土だ。
もう一つ、「花と竜(花と龍)」の舞台でもある。
同じく御大村田英雄、そして日活ゴールデンコンピ・石原裕次郎&浅丘ルリ子で。
ヤクザというのは、貧困だけの地域からは生まれない。飢餓で苦しむ地域ではヤクザもシノギができない。
かといって、豊かなだけの地域からも生まれない。セレブな成城マダムや芦屋夫人はヤクザにはならない。
ヤクザは「豊かさ」と「貧困」がモザイクのように混在する地域から生まれる。
九州はその典型で、
気候は農業に向いてるし、地理的に半島・大陸への窓口で交易の要衝、さらには明治以降の石炭産業の発達、などなど豊かな部分と、
「五木の子守唄」に代表される内陸部や「からゆき」さんに代表される離島の貧困部分が混在する。
さらに九州は、「明治維新勝ち組」かつ「明治維新負け組」というアンバランスな政治ポジションでもあった。
幕末、尊皇攘夷を唱えて大暴れした志士の出身地は、水戸藩を例外として、西南日本(九州、長州、土佐)が圧倒的だった。
よく「薩長土肥」というけれど、尊皇攘夷派はなにも薩摩、肥前だけではなかった。久留米勤皇党とか筑前勤皇党とか西南日本一円の他の藩にもわんさかいた。
その他大勢の尊皇攘夷派は、栄誉にも政治にも関与できず、徹底的に冷や飯を食わされる。
首都も西日本から遠く離れた江戸=東京のまんま。九州から見れば、薩長から上京した連中が新しい徳川幕府になっただけだ。結局、九州は維新成功の直接の恩恵をほとんど受けなかった。
それだけでもガマンできないのに、明治政府は、攘夷どころか、開国へ180度手の平を返す。チョンマゲを落とし洋服を着て鹿鳴館でダンス三昧である。
「TPP反対!ぶれない!」と連呼して選挙に勝ったのに、「TPPで日本経済を取り戻す!」と言い出した、いつかの時代のどこかの国にソックリである。
「こんなはずじゃなかった!」
これにキレた攘夷派士族が全国で反乱を起こす。
1874年 佐賀の乱(肥前)
1876年 神風連の乱(肥後)
1876年 秋月の乱(筑前)
1876年 萩の乱(長州)
1877年 西南戦争(薩摩)
1877年 立志社の獄(土佐)
全国、とは書いたが、全部が西南日本だ。明治維新勝ち組の土地ばかりである。
明治政府への反逆なんだから、戊辰戦争で痛めつけられた旧幕府や東北諸藩、つまり東日本で起こりそうなもんだが、戊辰戦争負け組はほとんど武装蜂起しなかった。
結局、士族の乱は全部惨敗。維新勝ち組のはずが維新負け組に転落する。
彼ら不平士族の生き残りから、新しい反政府行動「自由民権運動」が起こる。
自由民権運動というと、イメージが左翼っぽいけど、全然そんなことはなく、征韓論、植民地獲得、海外派兵など外交的にはゴリゴリのタカ派で、はっきり言えば右翼だった。
彼らは「維新の負け」を海外で取り戻そうとする。そこから玄洋社・黒龍会など民間右翼結社も誕生する。
彼らに、商売で稼ぐという発想はない。政治と戦争で誰かから奪い取るのだ。
「中国経済崩壊!韓国経済崩壊!EU経済崩壊!で、日本経済だけが復活する!」と言い出す、経済センスゼロの人々のご先祖サマである。
しかし負け続きの九州にも、ついに、予想外の宝くじが当たる。石炭である。
炭鉱からケタ違いの富が流れ出し、採掘、製鉄、陸運、海運、労働者の需要が爆発する。
炭鉱夫、川筋者、沖仲士、などなど流動性の高い労働力が集まり、さらに朝鮮半島からの過剰労働力も流れ込む。教育を受けてない彼らを管理・統制する暴力が必要となる。
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維新負け組の怨念、反逆の風土、勝つための暴力肯定、コツコツ商売より一攫千金、石炭が生み出す莫大なカネ、荒っぽい労働環境、法外な豊かさと徹底した貧困の混在、
いやいや、それ以前に、佐賀「葉隠」、肥後「もっこす」、土佐「いごっそう」などなど、西南日本には計算度外視の非合理的行動を良しとするヤクザ気質が昔からあったこともあり、
九州(そして西南日本)にヤクザ的精神風土の基盤が生まれたわけだ。
その九州石炭産業の、汚れ仕事=暴力を引き受けてのし上ったのが、「九州のゴッドファーザー」とでも呼ぶべき、若松(今の北九州市)の大親分・吉田磯吉だ。
下関のフィクサー・籠寅組の保良浅之助のライバルである。
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石炭が無くなった今でも文化は残る。いや石炭が無くなり、貧乏になれば、残るのは暴力だけになる。
成人式で大暴れした北九州の花魁ギャルや馬鹿ヤンキーのヤクザ気質は、石炭で天下を取った明治の大先輩までさかのぼる、九州の歴史と伝統なのである。
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一般に、ヤクザ映画といえば?、と質問すれば、だいたいにおいて「仁義なき戦い」が筆頭に上がる。
私だって何回見たか判らないくらいのオールタイムベスト・シネマである。
しかし「ヤクザ映画=広島」みたいになったのは「仁義」以降で、広島が舞台のヤクザ映画というのは「仁義」がほとんど初なのだ。それまで広島は無名な場所だった。
「仁義」以前のヤクザ映画・仁侠映画の舞台といえば、大阪や東京浅草もあるのだが、なんといっても最も舞台となったのは九州なのである。
戦前からの著名な九州の大侠客・吉田磯吉は、実名やモデルでちょくちょく仁侠映画にも登場する。
その代表例が、戦前の北九州を舞台にした任侠小説「花と竜/花と龍」。
邦画各社が映画化している。
★1954年東映
監督:佐伯清
玉井金五郎:藤田進
マン:山根寿子
お京:島崎雪子
吉田磯吉:滝沢修
東映なのに金五郎は黒澤映画な藤田進。磯吉は代々木共産党(笑)な滝沢修。
★1962年日活
監督:舛田利雄
玉井金五郎:石原裕次郎
マン:浅丘ルリ子
お京:岩崎加根子
吉田磯吉:芦田伸介
問答無用、裕次郎&ルリ子の日活ゴールデンコンビ。★1965、1966年東映
監督:山下耕作
玉井金五郎:中村錦之助
マン:佐久間良子
お京:淡路恵子
吉田磯吉:月形龍之介
錦之助&佐久間、磯吉は月形。そして東宝から淡路招聘。あと田村高廣や佐藤慶も助演、というという豪華ラインナップ。
★1969年東映
監督:マキノ雅弘
玉井金五郎:高倉健
マン:星由里子
お京:藤純子
吉田磯吉:若山富三郎
健さんが金五郎、とくれば純子がマンで順当なのだが、ここで東宝若大将のマドンナ澄ちゃん招聘という変化球で勝負。純子はワキのお京。磯吉は若山。日活の二谷英明も助演。
★1970年東映
監督:山下耕作
玉井金五郎:高倉健
マン:中村玉緒
お京:藤純子
吉田磯吉:片岡千恵蔵
健さん第2弾。マンはまたまた外部招聘(近年はさんまとテレビでご活躍,もちろん勝新の奥さん)大映の玉緒。純子はお京連投。磯吉は山の御大。★1973年松竹
監督:加藤泰
玉井金五郎:渡哲也
マン:香山美子
お京:倍賞美津子
吉田磯吉:なし?
松竹なのに主演は元日活の渡。ワキは竹脇無我、石坂浩二と松竹っぽく固めてるが、元大映の田宮二郎も投入。役者はまるまる1972年「人生劇場」からの流れ。
各作品の金五郎役を見るだけで、映画スタアの格が判るというものである。
成人式で大暴れした、または、する予定の、北九州のボンクラ小僧&ガールの皆さん、あなたたちの郷土の英雄、「思想的」大先輩は、たくさん映画化されているのだ。
これらを見ずして、故郷・北九州は語れない。レンタル屋へGO!
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