時事ドットコム:450年ぶりのミサ=ヘンリー8世の宮殿で−英
2016/02/10
16世紀にローマ教皇と対立し、英国国教会を設立したヘンリー8世が住んでいたロンドンのハンプトンコート宮殿で9日、約450年ぶりにカトリックのミサが執り行われた。イングランドとウェールズのカトリック教会トップのニコラス枢機卿は「素晴らしい瞬間だ」と祝福した。
ヘンリー8世は自身の離婚問題をめぐり、当時のバチカン(ローマ法王庁)と対立。自らを首長とする英国国教会を設立し、バチカンから独立、分離した。
ミサは宮殿の「チャペル・ロイヤル」(王室礼拝堂)で行われ、ニコラス枢機卿は英国国教会の主教とともに祈りをささげた。参加者の一人は「この不穏な時代に宗教間の対話はより必要性を増している」と語った。
16世紀といえば、日本は安土桃山時代。
日本でも、比叡山が焼き討ちされ、石山本願寺が落城し、豊臣秀吉の天下統一で日本の中世が終わり、近世に入る。武士の勝利、宗教の敗北、つまり日本の「脱宗教化」が明確になった時代。
イギリスでも「脱・カトリック」つまり「脱・ヨーロッパ大陸」が明確になった。
イギリスが完全にEUに溶け込めないのも、なにかとEUから離脱したがるのも、この時代からの流れなのだ。
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の続き。
共和党主流派=ワシントン右派=話の判るオヤジ3人は、偶然にも、(現在または過去に)カトリックに関わっている。そして、その関わり方が、まるで作ったかのように(笑)、明確にパターン化している。
生まれてからカトリックのまんまのクリスティ。
上記のミサのニュースは、そのカトリックと聖公会の450年続く戦いの和解の動きなのである。
そして、この聖公会というのがまた、ワシントン右派=話の判るオヤジ3人の政治的保守性・穏健性を物語る。
聖公会は、アングリカンとかエピスコパルとも呼ばれる、英国国教会である。
たくさんあるプロテスタント諸宗派の中でも、16世紀にカトリックから分離独立した、歴史が古く、有力な宗派だ。
聖公会の特徴は、歴史が古いこと、穏健であること。
歴史上、ローマ法王とイギリス国王のケンカで生まれた聖公会は、政治的にイギリス王家に従属して始まったので、宗派側からあんまり政治に介入しないのだ。
つまりアメリカの聖公会はプロテスタントではあるが、キリスト教原理主義、福音派、宗教保守のイメージからは遠い宗派である(もちろん例外はある)。ある意味「枯れている」「元気がない」とも言える(笑)。
そして教義的には、プロテスタントの中で一番カトリックに近い。
なにしろ教義解釈の問題で分離したわけではなく、政治的に分離しただけなので、宗教的には半分カトリックみたいな宗派でもある。
ということは、カトリック信者から、いきなり、教義や教会の雰囲気が違いすぎる、長老派だの、ペンテコステだの、バプテストだの、クエーカーだのに改宗するのは厳しいが、聖公会なら宗教的に無理が少ないということにもなる。当然、聖公会からかカトリックへの改宗も比較的ストレスが少ない。
ただし、教義的には近くても、いや近い故に、政治的には激烈な対立があった。
昔のイギリスなら、英国国教会への改宗はイギリス皇室への忠誠であり、カトリックへの改宗は外国勢力であるローマ法王への忠誠を意味して、政治的な大問題だった。
それこそ公務員になれるかなれないか、権利を失って弾圧されるか、下手したら殺されるか、という文字通り命懸けの決断だ。
さらに、イングランドが植民地にしていたカトリック国・アイルランドとの対立も絡む。
英国国教会とカトリックは、政治的に因縁のライバル関係であり、双方のトップ、イギリス王室とローマ法王は、ある意味、ヨーロッパの北と南の、アングロとラテンの「2大王権」なのだ。
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現在でもまったく過去の話ではなく、労働党のブレア元首相は元は国教会だったが、奥さんがカトリックだったので自分もカトリックに改宗する希望があった。ここまではアメリカのジェブ・ブッシュと同じだ。
しかしブレアは首相在任中に改宗できなかった。女王陛下の首相が、国教会を辞める、カトリックに改宗する、というのは一種のスキャンダルなのである。よって引退してからの改宗となった。
それでも女王陛下に対する裏切りは裏切りであり、ダイアナ問題も絡んで、ブレアは今でもイギリス王室に嫌われている。それは左翼とかいう話とはまったく別なのだ。
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16世紀以降、イギリス王家はイングランドやアイルランドのカトリック教徒を弾圧した。イギリスのカトリック教徒も「背教者」イギリス王家を怨み、ついに国王暗殺の陰謀まで起こり、犯人の一人・ガイ・フォークスが「大逆罪」で死刑になった。イギリスの難波大助である(笑)。
一番上の画像、「アノニマス」とかナンとかいうハッカー集団や、外国の反体制デモによく登場する「髭のお面」があるが、あれが国王暗殺未遂の死刑囚・ガイ・フォークスなのだ。
英国国教会信者にとっては、ガイ・フォークスは大罪人であり、イギリスには毎年、彼を模した人形を市中引き回しにして最後は焼き捨てる、「ガイ・フォークス・ナイト」というお祭りまである。
その反逆者が、宗教を離れ、イギリス王家だけでなく、全ての権威に対するレジスタンス、反体制アナキストのシンボルとなって甦ったのである。
映画「Vフォー・ヴェンデッタ」(2005年)にも登場する。
V for Vendetta japanese trailer
マンガ原作のディストピアもののはずなんだが、
反EUで、排外ナショナリズムが横行する、東ヨーロッパのポーランドやハンガリーにソックリであり、
中国共産党に抵抗する2019年の香港ソックリでもある。
顔を隠した主人公が秩序に反逆する、という意味では、
2005年の「Vフォー・ヴェンデッタ」と、
2019年の「ジョーカー」は、シンクロする要素が多い。
しかし、主人公の性格、そして目的は、かなり異なる。
この辺はいつか書きたい。
さて、聖公会か、カトリックかは、アメリカでも政治的・社会的・文化的意味を持つ。
聖公会は、数あるプロテスタントの中でも古くからの老舗であり、しかもイギリス系なので、アメリカの「お金持ち」「人生勝ち組」イメージの社会階層・WASP(ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタント)の本流だ。
これが、同じプロテスタントでも、南部バプテストやペンテコステなんかだと、失礼ながら、南部の無教養な田舎白人「人生負け組」のイメージになる。
勝ち組プロテスタントの中でもさらに勝ち組、それが聖公会のイメージだ。
対して、アメリカにおけるカトリックは、ヒスパニック、アイルランド系、イタリア系、ポーランド系、その他東欧諸国、まさに正々堂々、由緒正しい(笑)「貧乏人の子沢山」「人生負け組」イメージである。
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両者は、経済的にも文化的にも政治的にも対立した。
もちろんキレイには分かれないが、聖公会はWASPの多い共和党のイメージ、カトリックはマイノリティの多い民主党のイメージである
大統領だってプロテスタントが独占した。
アメリカ初(そして唯一)のカトリックはケネディ大統領だが、当時でもプロテスタント側には「ケネディは本当にアメリカのために働くのか?バチカンの命令に左右されるのではないか?」という疑心暗鬼があったくらいである。
もちろん、ケネディ時代から半世紀、ヒスパニックも急増し、イスラムという新顔のライバルの存在も大きい21世紀では、そこまでの対立はもうない。
それでも、聖公会→カトリック、カトリック→聖公会、の改宗は軽い話ではない。
ジェブは奥さんのために改宗したが、ケーシックの改宗理由はよく知らない。
マジメで誠実なオヤジだとは思うけど、若い頃のケーシックが「勝ち組へのステップアップ」という政治的野心で改宗した可能性は否定できない。
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