在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

法の支配(rule of law)VS法治主義(rule by law)~アメリカ軍VSトランプ~ハト派軍人VSタカ派シビリアン。

トランプさんの数々の暴言のうち、政治的に、一番ヤバイのは、おそらくこれ。

 

トランプ氏、米当局による「水責め」復活を呼び掛け 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

2015年11月23日

 2016年米大統領選挙の共和党の候補者指名を争うドナルド・トランプDonald Trump)氏(69)は22日、拷問だとして非難されている「水責め」と呼ばれる尋問手法の復活を呼び掛けた。イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」のしていることに比べれば水責めは「取るに足らないこと」だとしている。

(略)

 トランプ氏はテロ容疑者に対する尋問の手段としての「水責め」について、「私だったら復活させる。水責めは、奴らがわれわれにしたこと、していること、(米国人ジャーナリストの)ジェームズ・フォーリー(James Foley)氏を斬首したことに比べれば、ピーナツ(取るに足らないこと)だ」と語った。

 

拷問それ自体の具体的行為がヤバイ、のではない。

 

原則として、水責めで人は死なないが、

現在、アメリカ軍がやってる無人機爆撃は、拷問どころか、殺人である。

相手も、テロ「容疑者」どころか、まったく「人違い」の誤爆ケースが少なくない。

そんな人権侵害・ある種の無差別殺人を、リベラルといわれるオバマ大統領は許可している。

トランプさんはまだ人を殺してないが、オバマさんはすでに無実の人を殺しているのだ。

 

国家は、いったん戦争と決めてしまえば、誤爆を含む爆撃という人殺しが許される場合もあるが、それでも、戦場から遠い安全地帯での拷問は許されない。

矛盾しているように見えるが、それが近代国家である。

 

言葉は似ていて、混同されがちだが、大雑把に言えば、

ヨーロッパ大陸経由の「法治主義(rule by law)」ならば、正式な手続きを踏んで議会で「拷問OK」という法律さえ作ってしまえば、拷問は許される。

イギリス生まれの「法の支配(rule of law)」は、正式な手続きを踏もうが、そもそも「拷問OK」なんていう法律それ自体を、「法の背後にある法の精神=自然法=神」が、国家に許さない。

 

法の支配(rule of law)VS法治主義(rule by law)VSドゥテルテ大統領~フィリピン麻薬容疑者殺害=中国南シナ海侵略。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

「法の支配」においては、

もちろん、現実に、現場サイドの独断で、黙って、隠れて、拷問をやることはあるだろうし、上部組織も現場の拷問を認知してるくせに黙認する、ことはありうるが、

合衆国大統領と、議会と、アメリカ軍が、正式に拷問を許可することは、マトモな政府関係者や軍人にとっては、許されないというか、非常な抵抗感があるのだ。

 

しかし「法治主義においては、

大統領や議会や上官が許可するのならば、現場の軍人が内心どう思おうが、無差別爆撃も、拷問も、目的達成のためにやることができる、いや、やらなければならない。

 

しかも、トランプさんは、テロ容疑者の拷問だけでなく、テロ容疑者の家族の殺害も認めようとしている。

法が裁く前の容疑者の、しかも、犯行に賛成したかどうかもわからない、そして実際に犯行を犯していない、近代法上無罪の第三者の殺害である。アメリカ軍に「家族を殺せ」と命令するつもりなのだ。

 

だから、現場の軍人として、拷問や、第三者の暗殺を、公式に許可するようなアメリカ大統領が誕生しては困る。

 

正反対に、日本国憲法第9条2項のような、反戦平和、武装放棄を文字通り要求する大統領が誕生しても困る。武装放棄は国家崩壊につながるから、9条は厳密に言えば、「法の支配」が前提とする国家の存在を否定する側面がある。

つまり日本国憲法第9条2項は「法の支配」に反する部分があるのだ。

 

というわけで、トランプさんの拷問OK・家族殺害OKの発言に、アメリカ軍とCIAなどの情報機関の意思を代表する人物が危惧の念を述べている。 

 


元米CIA長官、「トランプ大統領」は怖いと

 

米軍はトランプ大統領の命令拒否できる元CIA長官 - WSJ

2016年02月28日

 米国の国家安全保障局NSA)長官や中央情報局(CIA)長官を歴任したマイケル・ヘイデン退役空軍大将は、ドナルド・トランプ氏が大統領に選出され、公約を実施した場合、米軍は最高司令官となるトランプ氏の命令の一部を拒否するだろうと述べた。
 ヘイデン氏は最近まで、共和党の大統領候補指名争いから撤退したジェブ・ブッシュ氏のアドバイザーだった。
 ヘイデン氏はHBOのトーク番組「リアル・タイム・ウィズ・ビル・マー」のインタビューで、「トランプ氏が選挙運動中の公約を行動に移すような政治を行えば、非常に心配になる」と述べた。
 共和党の大統領候補指名争いでトップを走るトランプ氏は、大統領に選出されればテロリスト容疑者に対し、「水責め」の復活など拷問を行うと公約。
 また、米軍に命令してテロリストの家族らを殺害することも示唆している。これはジュネーヴ条約違反であるとの指摘もある。
 ヘイデン氏は、トランプ氏がホワイトハウスから命令を下した場合、軍部はその一部を拒否する必要があると指摘。「米軍は違法な命令に従う必要はない。(トランプ氏の提案の一部は)武力紛争に関するすべての国際法違反になる」と話した。

 

ビル・マーというのは、アメリカで著名なコメディアン、テレビ司会者、政治評論家である。そして徹底した無神論者で、キリスト教福音派イスラム原理主義を批判し、笑いものにしている。

アカデミー賞の司会をやったクリス・ロックもそうだが、アメリカのコメディアンは政治的発言も芸の内だ。

そしてクリス・ロックビル・マーも、アメリカのコメディアンの大半は、ハリウッド俳優同様、かなりのリベラル派・民主党寄りで、よく共和党を笑いのネタにする。

 

つまり、CIA長官を務めた元空軍大将が、リベラル派コメディアンの番組で、選挙の真っ最中に、共和党トランプ候補を批判したわけだ。政治的中立もクソもない(笑)。

しかもそのニュースを流しているのが、リベラル派のニューヨークタイムスではなく、共和党主流派支持のウォールストリートジャーナルである。

 

日本では、軍人やCIAといえば、どうせ右翼で、共和党支持だろう、と思うかもしれないが大間違いで、もちろん軍人全体の過半数共和党支持だろうが、重要なポストに付くような将官クラスはバランスの取れた人物が多い。

マイケル・ヘイデンも、共和党政権でCIAをやり、共和党ブッシュ弟の選挙参謀をやっていたわけで、明らかに共和党系、それもブッシュファミリーに近い軍人である。ということはネオコン系のタカ派である可能性が高い。

そんなゴリゴリのネオコン軍人でも「いくら国家のためでも、やっていいことと悪いことは、区別しないとダメだ」というリベラルマインドは持っているのである。

 

【米大統領選2016】トランプ氏を共和党幹部が異例の集中攻撃 (BBC News) - Yahoo!ニュース

2016年03月04日

また米テレビ番組で有効なテロ対策にはテロリストの家族を殺すべきだと発言したことが「国際法違反だ」「最高司令官の命令でも軍は従わない」などと批判されているトランプ氏だが、討論会では改めて、テロリストの家族は危険だと強調。民間人殺害を命じられても「軍は拒否しない」と断言し、さらにテロ容疑者に対する水責めや拷問も問題ないと自説を繰り返した。

 

トランプさんも支持者の手前強気だったが、さすがに軍人サイドの批判は強烈だったようで、軌道修正する。

 

トランプ氏、拷問と殺害支持の前言撤回 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News

2016年03月05日
米大統領選の共和党指名候補争いで首位を走るドナルド・トランプDonald Trump)氏は4日、テロ容疑者の拷問やその家族の殺害を主張した発言を突然撤回し、また米大統領に選ばれたら国際法に違反するようなことを米軍に命じることはないと明言した。
 トランプ氏は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に声明を発表し「テロリストを阻止するために私はあらゆる法的権限を行使する。しかし、米国が法と条約に拘束されていることは理解しており、わが国の軍やその他の関連部局にそうした法に違反するような命令を下すつもりはない。そうした問題については軍や関連部局に助言を求める」と述べた。
 この声明とは対照的に、3日の共和党候補討論会でトランプ氏は、それまでの持論をさらに積極的に訴え、自分が大統領に選出されたら、水責めより「はるかにひどい」ことを行うと述べ、テロリストの容疑者の家族を攻撃対象にしても「何の問題もない」と主張していた。
 討論会ではさらに「中東で人の首をはねる、けだものの奴らを想像してみてほしい。われわれが水責めを行うにも手を焼いているのを眺めながら、ああだこうだ言ってるんだ」と述べ、この数か月間行ってきたのと同様の発言を繰り返した。
 トランプ氏の高圧的な発言は、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」などの掃討作戦を進める米国主導の有志連合の成果や交戦規定に不満を持つ層からは支持を受けていたが、それ以外の幅広い層から激しい非難を浴び、専門家らも、国防総省はいかなる違法な命令も拒否するだろうと指摘していた。
 3日の討論会でトランプ氏は、これまでにさまざまな問題で政治姿勢を翻してきたことを対立候補から批判されており、今回の前言撤回もそうした批判をさらにあおることになるとみられる。トランプ氏は討論会で、自分は「柔軟なだけ」だと反論していた。

 

しかし、現場の軍人と異なり、トランプさんを支持する一般大衆はイケイケドンドンである。トランプさん、前言撤回をさらに前言撤回した。

 

トランプ氏、再び拷問支持を表明 「前言撤回」を否定 写真1枚 国際ニュース:AFPBB News

2016年03月07日
米大統領選の共和党指名候補争いで首位を走るドナルド・トランプDonald Trump)氏は6日、テロ容疑者の拷問やその家族を対象とした攻撃を認めるとの主張を撤回したとの批判を否定し、拷問を可能にするために米国の法律を改正すべきだとの考えを示した。
 米FOXニュース(Fox News)とのインタビューでトランプ氏は「私は拷問に関する考えをころころ変えてはいない。法に従うと言っているだけだ」と述べ、「われわれには法があるのにISIS(イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の別称)には法がないなんてばかげている。われわれには規則や規制、法律があり、私はこれに従うが、乗り気ではない」と語った。
 さらにトランプ氏は「こうした法律に手を入れていきたい。われわれは(ISと)同じ土俵で相撲をしていないのだから。私は考えをころころ変えたりなんかしてない。法律には従う。だが、そういう法律を拡大したいとも考えている」と付け加えた。
 米議会が禁止した「水責め」などの過酷な尋問手法の復活や、テロ容疑者の家族の殺害の許可を訴えてきたトランプ氏は3日の共和党候補討論会でもこれを主張。だが、翌日には、自分が大統領になれば「テロリストを阻止するためにあらゆる法的権限を行使する」ものの、国際法に違反するような命令を出すことはないと明言していた。

 

仮に、ちゃんと選挙に勝てば、トランプ大統領アメリカ国民の代表であり、シビリアンの頂点である。

その彼の命令に、現場の軍人が従わない、なんてことになれば、それはシビリアンコントロールの否定であり、理屈の上では「クーデタ」になる。

しかし、元空軍大将で元CIA長官、アメリカの軍事と情報と治安を代表するプロフェッショナルが、それを明言している。いうなればクーデタ宣言である。

 

民主主義で選ばれたシビリアンの大統領が、テロリスト容疑者を拷問しろ!家族も殺してしまえ!、と命令する。

民主主義で選ばれていない軍人が、拷問や暗殺を拒否する。

 

法治主義」の観点からは、明らかに、トランプさんが正しく、軍人が間違っている。

じゃあ「法の支配」の理屈からみて、トランプさんが正しく、軍人が間違っているのか?

シビリアンコントロールは、法治主義」か?「法の支配」か?

 

トランプさんは、勢いのあまり、危険な領域に踏み込んでしまったのだ。

 

元航空自衛隊幕僚長田母神俊雄空将VS元CIA長官マイケル・ヘイデン空軍大将。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

(まとめ)2016年アメリカ大統領選挙~民主党VS共和党~ワシントンVSラジカルレフトVS宗教保守VSリバタリアンVSポピュリスト - 在日琉球人の王政復古日記