在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

英国政治~イスラエル・シオニズムVS左翼・イスラム教徒~EU残留派VS離脱派(Brexit)

先日の英国地方選挙は、ロンドンだけでなく、他の地域の選挙でもあった。

ユダヤ人、イスラエル労働党左派、労働党右派の骨肉の争い、

EU残留派、離脱派、スコットランドウェールズ、EU、など地域の葛藤、

などなどがむき出しになって興味深い。

 

ロンドン市長選~労働党イスラム貧乏人サディク・カーンVS保守党ユダヤ大富豪ザック・ゴールドスミス(シーシェパードのスポンサー) - 在日琉球人の王政復古日記

の続き。

 

中世から続くユダヤ系ドイツ人金融財閥の子孫と、パキスタンの名も無き貧乏イスラム教徒が、英国国教会のお膝元・ロンドン市長の座を争う。

その選挙戦は決してキレイなモノではなかった。

 

CNN.co.jp : ロンドン市長にサディク・カーン氏、初のイスラム教徒 - (1/2)

2016.05.07 Sat

ロンドン(CNN) 5日に投票が行われた英国の統一地方選で、ロンドン市長選では6日、労働党のサディク・カーン氏が当選し、イスラム教徒として初めて欧米の主要都市の首長となった。ロンドンはイスラム教徒が人口の12%を占める。
カーン氏はロンドン生まれで、パキスタン移民の父を持ち、6人のきょうだいとともに公営住宅で育った。法律を学び大学講師などを務めた後、2005年の英下院議会選で当選した。
今回のロンドン市長選では、資産家を父に持つ保守党のザック・ゴールドスミス候補との間で激しい選挙戦が展開。人種や宗教といった争点をめぐり激しい応酬があった。
ゴールドスミス氏は1日付の英紙メール・オン・サンデーで、2005年のイスラム過激派によるテロ攻撃で破壊されたロンドン名物の2階建てバスの写真を背景に、「我々は本当に、テロリストを友達だと思っている労働党にこの世界で最も偉大な都市を本当に引き渡すのか」と問いかけた。
これに対し、イスラム恐怖症に駆られた文章であり、イスラム教徒を含め多様な市民が住むロンドンで不必要な分断を招くものだとして怒りの声が上がっていた。
(略)

  

ザック氏のようなユダヤ系が、イスラム相手にネガティブ・キャンペーンを張ると、単なるキリスト教徒がやるのとは、また異なる政治的意味合いを持ってしまう。

イスラエルパレスチナ問題である。

 

ロンドンに史上初のムスリム市長誕生か、英統一地方選 写真8枚 国際ニュース:AFPBB News

2016年5月5日
 これまでの選挙戦では、保守党がカーン氏をイスラム過激派と関連付けようとする攻撃を展開。これに、労働党内で「反ユダヤ的」発言をめぐってケン・リビングストン(Ken Livingstone)前ロンドン市長らが党員資格停止となるスキャンダルが加わり、非難合戦が過熱している。
ネガティブキャンペーンが物議
 4日の英議会下院ではデービッド・キャメロン(David Cameron)首相が、労働党内の反ユダヤ主義への対応を怠ったとしてジェレミー・コービン(Jeremy Corbyn)党首を批判。コービン氏とカーン候補の双方がイスラム過激派に共感していると主張して「労働党は、労働者よりも過激派を重視する党だ」などと発言した。

 

一読して、意味不明な部分があると思う。

イギリス政治なんて、日本からは遠い話なんで、当たり前だ。

国保守党は、サッチャーさんを出したことでも判る通り、保守である。

対抗する英国労働党は、名前の通り、リベラル左翼である。

 

その左翼の労働党反ユダヤ主義? え?ネオナチなの? 右翼じゃん、みたいな混乱を感じるかもしれない。

 

記事に出て来る労働党ケン・リビングストンも、元ロンドン市長だった。

有名な政治家である。ただの労働党ではない。あだ名はなんと「レッド(アカ野郎)ケン」(笑)。ゴリゴリの社会主義者、つまりはネオナチとは正反対の思想の人だ。

  

現在の労働党党首ジェレミー・コービンも、党内極左の一匹狼だったが、レッド・ケンも負けず劣らず、筋金入りの左翼だ。

アメリカ民主党大統領候補バーニー・サンダースよりも左だろう。

 

そんな真っ赤なケンさんが、反ユダヤ的(アンチ・セミニズム)発言をした、ということで騒動になった。

ネオナチのような右翼が反ユダヤなら解る。しかし正反対のリベラル労働党、しかもその中でももっとも左端の人物である。なんで左翼の労働党員が、右翼ナチスに迫害されたユダヤ人を批判したのか? 

それは「パレスチナ」である。

 

中世から第二次世界大戦以前まで、ヨーロッパのユダヤ人は、圧倒的多数派のキリスト教徒から、あからさまに差別されてきた。

ゴールドシュミットやロスチャイルドのような大富豪も含めて、中世ユダヤ人の社会的地位は最下層であり、21世紀ヨーロッパのイスラム移民の立場よりヒドイ。社会不安がおこるたびに暴力や略奪のターゲットにされた。

そういうユダヤ人差別の長い歴史が積み重なって、とうとう20世紀ナチスが総決算ともいうべき大量虐殺をやらかす。なにもナチスが特殊だったのではなく、ヨーロッパ・キリスト教徒の差別感情を限界まで極大化した結果なのである。

ゆえに戦後ヨーロッパ左翼はユダヤ人への贖罪の気持ちで始まった。そのまんまなら、左翼は迫害されたユダヤ人の味方だった。

しかし、戦後、シオニスム(ユダヤ人国家建国運動)のユダヤ人が大量にパレスチナに移住して、地元のパレスチナ人を迫害するようになって、話が捻じ曲がっていく。

 

中世から20世紀まで、苛め抜かれていた弱者、左翼陣営のユダヤ人が、

20世紀になって、パレスチナ人を苛め抜く強者、右翼陣営のイスラエル人に、

立場を大逆転させたのである。

 

パレスチナ人へのあからさまにヒドイ扱いを見て、批判するヨーロッパの人権派に対して、イスラエルは「ナチスを忘れたのか?!ユダヤ人は被害者だ」と、人権思想からは反論が言いにくい切り札を持ち出す。

しかし、そういうことを繰り返すうちに、人権派の中でも左よりの連中が「ナチスを隠れ蓑にするのはいい加減にしろ。お前らのやってることもナチスと同じだ」「昔のナチスが今のイスラエルで、昔のユダヤ人が今のパレスチナ人なのだ」と、パレスチナ迫害に平気なイスラエルと、対立するようになる。

 

つまり、ここでいう「反ユダヤ主義」とはナチズムではない。エスニシティとしてのユダヤ人を差別しているのではないのだ。
正確に書けば「アンチ・シオニズム=反イスラエス主義」の事なのだ。簡単に言えば、迫害されるパレスチナ人への連帯意識なのである。

 

確かに、ユダヤ教徒でもキリスト教徒でもイスラム教徒でもない、東アジアから客観的に見れば、壁で分断された21世紀のパレスチナは、壁で封鎖された中世フランクフルトのユダヤ人ゲットーと同じである。ヨーロッパ左翼の意見が正しい。イスラエルは明らかにムチャクチャだ。

 

ヨーロッパの中でも英国の特殊事情として、「北アイルランド」というパレスチナ問題に構造がよく似た自国の民族問題を抱えていたこともある。北アイルランド問題で負い目のある英国左翼の中にはイスラエルシオニストへの嫌悪感が強い。当然、労働党にも、特に左派には、そういう意見の持ち主が多い。

さらに、ロンドンだけでも人口の12%がイスラム教徒である。彼らは出身は違えど、イスラエルよりは、同じ宗教のパレスチナ贔屓である。

そして、今回のカーン市長だけでなく、労働党の政治家には移民出身のイスラム教徒がたくさんいる。

 

その一人、パキスタン系の女性・ナズ・シャーという労働党下院議員が「イスラエル国家がまるごと(イスラエルの味方である)アメリカ合衆国のどこかに引っ越せば、パレスチナ問題は解決する」という、まあ半分ブラックジョークの主張をしたらしい。

これが、反イスラム派、イスラエル支持派、なにより選挙で争う保守党によって「イスラム教徒のユダヤ(アンチ・セミニズム)差別だ!」ということで、フレームアップされた。

 

対して、もともと長年にわたって、パレスチナにおけるイスラエルの横暴にガマンがならなかった、左翼のレッド・ケンが「イスラエルへの批判は、ユダヤ人差別じゃない!」と、ナズ・シャーを擁護して、火に油のスキャンダルに発展した。

さらに、保守党だけでなく、労働党の中道派=右派も、この騒動を、極左コービン党首の追い落としに利用しようと、騒ぎに加担した。

 

労働党は大根乱、もともとユダヤ系が多いマスコミも労働党バッシングである。

こういう騒動の中で英国地方選挙が行われたわけだ。労働党は最初から不利だったので、今回の選挙結果はある程度予想されていた。

 

しかし保守党も磐石ではない。

キャメロン首相のパナマ問題もあるが、もっと大きいのがEU残留派と離脱派(Brexit)の対立だ。

キャメロン首相は残留派、前任のロンドン市長ボリス・ジョンソンは離脱派。

保守党内部で意見対立。これは日本のTPPと相似形である。

   

アメリカだけでなく世界中が、トランプさんのアイソレーショニズムアメリ孤立主義)に困っているように、

英国EU離脱は、ドイツのようなEU加盟国だけでなく、アメリカも日本も困る。

 

米大統領「積極介入」で衝撃=キャメロン首相は得点、離脱派猛反発―英国民投票 (時事通信) - Yahoo!ニュース

 オバマ大統領の残留支持の姿勢は以前から明らかだったが、22日の首脳会談後の記者会見ではさらに踏み込んだ。英国がEUを離脱した場合、米国との貿易協定締結の交渉での優先順位で「列の後ろに並ぶことになる」と、英国にとって屈辱的な表現をあえて使って警告。米国との長年の「特別な関係」を自負してきた英側にショックを与えた。

 

首相、英のEU残留を支持 キャメロン首相と会談 (朝日新聞デジタル) - Yahoo!ニュース

安倍首相は、英国が6月23日に行う欧州連合(EU)からの離脱の是非を問う国民投票について、「日本は非常に明確に英国がEUに残留することが望ましいと考えている」と述べ、残留を主張するキャメロン氏を支持した。 

 

オバマはもはや脅迫である(笑)。安倍ちゃんも援護射撃だ。

しかしトランプさんが、またまたオバマ逆張りである(笑)。

 

英国はEU離脱した方がずっと良い─トランプ氏=米テレビ (ロイター) - Yahoo!ニュース

米大統領選で共和党候補の指名獲得を確実にした実業家、ドナルド・トランプ氏は5日、英国は欧州連合(EU)を離脱した方がずっと良い状態になるとの考えを示した。

 

現在の英国労働党は、政治思想的には正反対だが、現在のアメリカ共和党に似た党内問題を抱えている。

国労働党もアメリカ共和党も、議会の政治家の多数は中道派・穏健派だ。

しかし、党員や支持者は、左右はまったくアベコベなんだが(笑)、強硬派・過激派なのである。

アメリカ共和党中央が、穏健中道のジェブ・ブッシュを推したいのに、草の根支持者がポピュリスト・トランプを大統領候補にしてしまう。

同じく、英国労働党中央も、ブレア系「第三の道」つまり資本主義路線なのに、草の根支持者が、左に振り切って、昔の社会民主主義路線を要求して、本来当選の可能性ゼロだった党内一番左端、超少数派コービンを党首にしてしまった。

 

国保守党も、EU残留派キャメロンがジェブ・ブッシュ的立場、離脱派ジョンソンがトランプ的立場となる。

今の情勢でEU離脱となれば、英国保守党も下手をしたら、アメリカ共和党や英国労働党のような分裂状態となる。

 

対して、アメリカ民主党は、今のところ一応、中道ヒラリーを勝たせて、左派サンダースを落としそうで、アメリカ共和党や英国労働党までの分裂はない。

 

英国政治~「ネイション」とは何ぞや?~スコットランド民族党VS国家社会主義ドイツ労働者党。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

英国政治~実録・仁義なき戦いベルファスト死闘編~ナショナリスト、リパブリカンVSユニオニスト、ロイヤリスト。 - 在日琉球人の王政復古日記