この映画の舞台こそオザーク高原。主人公はヒルビリーの少女だ。
《ガーリームービー列伝》イスラム少女戦記サウジアラビア編「少女は自転車にのって」(2012年)VSアメリカ編「ローラーガールズ・ダイアリー」(2009年) - 在日琉球人の王政復古日記
同じガーリームービー、同じアメリカ、同じ南部でも、前回はテキサス、今回はオザーク高原。
生まれた場所で少女たちの人生は天地ほども違うのである。
アメリカ大統領選挙トランプ~HILLBILLY/ヒルビリー「じゃじゃ馬億万長者」~スコッチアイリッシュ~名誉革命。 - 在日琉球人の王政復古日記
の続き。
ここら辺が、アメリカ政治の「ややこしい」ところなんだが、共和党と民主党は、今と昔で、そのイデオロギーと政策と支持層が、180度サカサマにひっくり返っている。
黒人のオバマは民主党、人種差別するトランプが共和党だが、大昔の南北戦争で奴隷解放したのは共和党のリンカーンであり、奴隷制を守ろうとしたのが南部の民主党なのだ。今とは正反対なのである。
今は、北部がリベラル・民主党の地盤、南部が保守・共和党の地盤だが、
昔は、北部は理知的な共和党の地盤、南部は鎖国的な民主党の地盤だった。
だいたい、大恐慌から、第2次世界大戦を挟んで、1960年代までに、
日本で言えば、自民党が反原発になって、民進党が靖国参拝するような(笑)、
180度のどんでん返しが、アメリカの政治には起こっている。
映画「アラバマ物語」~黒人をリンチした南部白人の支持政党は、オバマを大統領にした民主党。 - 在日琉球人の王政復古日記
カトリック・アイリッシュは、北部の大都市圏だから共和党の地盤なんだが、共和党を支配したWASPプロテスタント・イングランド人への反感から、北部の貧乏移民の味方をした民主党を支持した。
その後、民主党が北部地盤のリベラルに大転換すると、カトリック・アイリッシュは民主党の主要勢力となる。あの民主党ケネディ大統領もカトリック・アイリッシュである。
スコッチ・アイリッシュを源流とする南部のヒルビリーは、昔は地元の南部民主党支持だっただろうが、今じゃほとんど共和党だろう。特に憲法修正第2条「銃の権利」は、ヒルビリーの譲れないアイデンティティだからだ。
ちなみに、映画「ローラーガールズ・ダイアリー」のお母さんも、おそらく共和党支持である。テキサスの白人労働者。しかも娘にミスコン出場を強制するような母親は、ジェンダー思想的にも南部丸出しの保守であり、リベラルではありえない。
映画「ローラーガールズ・ダイアリー」の少女は、芝生付きの一戸建てに住み、ワックスをかけた錆びてない車に乗り、父も母も働き、自分は高校に通い、バイトして、ミスコンに出て、デートもできる。
同じアメリカ南部でも、テキサスよりはるか東、オザーク高原に住むヒルビリーの少女と一家の物語・映画「ウィンターズ・ボーン」に、そんなもんは一つもない。
家は先祖の誰かが建てた、素人の日曜大工みたいな掘立小屋、周りは雑木林、車は錆びつき、父親は行方不明、母親は廃人同様、バイト先もない。
ヒルビリーの少女は、小学生の弟に、狩猟のためのライフルの撃ち方を教え、野生のリスのさばき方や料理方法を教えるのである。それが彼らの生きる技能である。
アメリカじゃ、小学生用のライフル銃まで通販している。
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親が買って、小学生の息子にプレゼントするのだ。
女の子用の可愛いピンク色のライフルもある。
ピンク色だろうがオモチャではない。口径が小さくても弾丸が頭に当たれば死ぬ。
アメリカの共和党家庭の少女は、小学生の段階で、日本のヤクザや半グレ少年を簡単に殺せる戦闘力を持つ。物理的にはイスラム国のジハード戦士と互角に戦える。
これが、アメリカ憲法修正第2条であり、共和党支持者の親子の愛情表現だ。
孔子「苛政猛於虎也」~アメリカ憲法修正第2条が世界の共産化を防いだ。 - 在日琉球人の王政復古日記
しかし、これは、テキサスあたりの中産階級の贅沢な話であり、貧困のヒルビリーにはピンク色の子供向けライフルを買う金なんかない。祖父の代から使ってる大人用のライフルを受け継ぐのだ。
ヒルビリーには、不況すらない。失業すらない。
300年!に渡って最初から景気の良かった時代なんかないし、そもそもマトモな企業の就職口もないからだ。
少女のお祖父さんの世代は、密造酒を作って暮らしていた。
お父さんの世代は、市販の風邪薬から覚せい剤を密造して食っている。
南部の都市圏なら黒人やヒスパニックでも買っているコカインすら、白人のヒルビリーには高価すぎて手が出ない。
少女の父親も覚せい剤密造で逮捕され保釈中に行方不明、その保釈金の担保が犬小屋同然の掘っ立て小屋のため、父親が見つからないと、家を失うことになる。
地元の警察はヒルビリーたちが覚せい剤の密造をやってることなんて百も承知で、パトロールに巡回する。
ヒルビリーにとって警官は初めから生活の敵だ。銃を握っていざとなったらいつでも銃撃戦をやる覚悟である。
彼らにとっては、警察も裁判所も、郡政府も州政府も連邦政府も、誰もかれも彼らの生活を脅かす敵であり、公共機関は全く信用しない。
つまり貧困者に社会福祉を提供しようとする、オバマやヒラリーのような民主党的政策をアタマから拒否する。だから、貧困なのに、何もしない小さな政府の共和党を支持する。
信用できるのは、家族、一族、親類縁者のみ。一族が覚せい剤のような犯罪に手を染めていても、協力が当たり前で、警察でゲロなんてありえない。もしも一族を裏切ったら、少女の父親のように、タダでは済まない。
そういうアメリカ最底辺のバックボーンが、共和党と銃社会と全米ライフル協会NRAを支えている。
日の当たる観光地ハワイで生まれて、
専門用語の並ぶ書籍を読むのが当たり前の人々が住むハーバードで学び、
スラム街とはいえ、アスファルトで舗装された大都市シカゴを歩いてきた、
おそらく革靴に泥を付けた経験もないであろう、黒いインテリ・オバマが、
葬式に着ていく黒のスーツすら持ってない、白い土人・ヒルビリーから銃を取り上げることが、いかに不可能に近いかがよく判る。
ヒルビリーがこの生活を脱出するには、教育、大学進学しかない。しかしそんなカネはない。となれば、方法は軍隊への志願しかないのだ。軍人には大学の奨学金が出る。
トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実 | 渡辺由佳里 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
困難に直面したときのヒルビリーの典型的な対応は、怒る、大声で怒鳴る、他人のせいにする、困難から逃避する、というものだ。自分も同じような対応をしてきたヴァンスが根こそぎ変わったのは、海兵隊に入隊してからだった。そこで、ハードワークと最後までやり抜くことを学び、それを達成することで自尊心を培った。そして、ロースクールでの資金を得るためにアルバイトしているときに、職を与えられても努力しない白人労働者の現実も知った。遅刻と欠勤を繰り返し、解雇されたら怒鳴り込む。隣人たちは、教育でも医療でも政府の援助を受けずには自立できないのに、それを与える者たちに牙をむく。そして、ドラッグのための金を得るためなら、家族や隣人から平気で盗む。
そうなってしまったのは、子供のころから努力の仕方を教えてくれる人物が家庭にいないからだ。
記事の中の男性も海兵隊に入ることでヒルビリーの因習から脱出した。
海兵隊とは、陸軍よりも先に、危険な場所へ放り込まれる可能性がある、ダーティーワーク専門の歩兵部隊である。つまりヒルビリーからの脱出は命懸けなのである。
ヒルビリーが、殺伐とした荒野から脱出するためにアメリカ軍に入隊して、それから向かう先には、今まで何の接点もない、聞いたことも、見たことも、考えたこともない、親しみもないが、怨みもない、「イスラム」という異次元の、しかし、なぜか、銃や暴力への接し方、土地の荒れ方、政府への考え方、家族の在り方、一族や血統への忠誠が、どことなく彼らヒルビリーと似ている野蛮人との殺し合いなのである。
復古主義を唱えるアフガニスタンやイラクのイスラム原理主義者たちは、
近代以前という意味では、腹違いの兄弟なのだ。
映画「ウィンターズ・ボーン」の少女も、貧困と絶望から脱出するために軍隊へ志願しようとするが、こっちは両親が行方不明と無能力で、軍隊志願に必要な親の承諾書すら作れない。
最終的に、少女が家を失わないためにできる最後の手段は、「生死を問わず」父親を探し出すことだ。たとえ「父親の一部」であっても、警察に持って行って、出頭の意思があったこと(出来なかった理由)を証明して、保釈金をチャラにするしかない。
ヒルビリーの支持するドナルド・トランプは、ニューヨーク生まれのニューヨーク育ちの大金持ち。ヒルビリーとは似ても似つかない人生である。
お祖父さんはドイツ移民だったらしいが、宗教が長老派なんで、スコットランドの血は引いてるかもしれない。そこはかろうじて共通点だ。
ヒラリー・クリントンは五大湖シカゴの中産階級生まれ。宗教はプロテスタントでも、カルヴァン派ではないアルミニウス主義のメソジスト。こっちもヒルビリーからはほど遠い。
しかし、興味深いのは、彼女の旦那だ。
ビル・クリントン元大統領は南部アーカンソー州生まれ。ヒルビリーの住むオザーク高原の南隣りだ。厳密にはヒルビリーのテリトリーではないが、貧乏白人の多い地域である。
ヒルビリーの住むオザークは山奥すぎて黒人はほとんどいないらしいが、ビルの生まれた地域は南部らしく黒人も多い。そしてビルが政治家として成功したのも、黒人から圧倒的支持を受けたからだ。彼は白人ながら、黒人と共生して育ち、黒人をよく理解し、終始一貫して黒人の味方だったのだ。
同じニューズウィークにこういう記事があった。
ビル・クリントンの人種観と複雑な幼少期の家庭環境 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
クリントンが大統領に就任した1993年にノーベル文学賞を受賞した、現代アメリカを代表する黒人女性作家トニ・モリスンがクリントンを「アメリカ史上初の黒人大統領」と表現したことはアメリカで広く知られている。人種分離が残っていた南部アーカンソー州で、幼少期に黒人と親しく交わった経験がクリントンの人種観に影響を与え、大統領就任後には黒人からの根強い支持を獲得することにつながったと見る者は多い。
こんなエピソードがある。アーカンソー州議員も務めた黒人法律家リチャード・メイズは、あるとき若い黒人女性が主催するパーティに招かれた。そこで、当時32歳で州司法長官だったクリントンを偶然見かけた。白人の招待客はクリントン1人だったが、ぎこちない様子などもなく、ほかの黒人の来客と普段通り談笑していた。メイズはクリントンの自然な振る舞いに感心したという。
同じアーカンソーなのに、同じ貧乏人なのに、同じ白人なのに、山地に生まれたか、平原に生まれたか、で考え方も政治思想も全く違ったのである。
因縁か、偶然か、彼の名前も、ビル=ウィリアム=ビリーである。
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