在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

《在日コリアン映画列伝》 #キューポラのある街 (1962)吉永小百合VS Triumph des Willens(1934)VS 風と共に去りぬ(1939)


映画「キューポラのある街」予告編

 

1934年、レニ・リーフェンシュタールというドイツの女性監督が、ナチスに依頼されて、記録映画「意志の勝利 Triumph des Willens 」(1934年)を撮った。

 


Triumph des Willens (1935)

  

彼女は才能が有り過ぎた。

 

「意志の勝利」は、映画として、特にテクニック面で、あまりに出来が良すぎたために、彼女の名前はナチス協力者として残ってしまい、戦後は不遇な映画人生を送る。

 

それから5年後の大東亜戦争直前、アメリカで「風と共に去りぬ」(1939年)が公開された。

 


Tara's Theme ~ Gone with the Wind

  

今見ても、これが戦前の映画だというのが恐ろしい。

 

当時、平均的な庶民が牛肉も満足に食えなかった日本は、こんな映画を普通に作ってしまう国と戦ってしまったのである(笑)。勝てるわけがない。

 

さらに言えば、たった5年前の「意志の勝利」とも、格段に異なる。

カラーとモノクロ、アメリカとドイツ、娯楽映画と宣伝映画、という違いだけではなく、映像、音楽、演出、映画技法のレベルが、別の段階に入っている。

「意志の勝利」は昔の映画だが、「風と共に去りぬ」は現在の映画と変わらない。

 

風と共に去りぬ」は、今でも日本では大傑作と評価されている。

平成の皆さんは見てない人が大多数だろうが、昭和の映画好きならば、誰でも一度は見ているだろう。

しかし本国アメリカでは批判も多いのだ。なぜなら黒人奴隷制度を肯定的に表現しているからだ。

作られたのは、公民権運動よりはるか前、南部では人種差別が当たり前だった時代である。

当時は、白人と黒人が対等だなんて、白人だけでなく、差別されている黒人の大半も思っていない時代だ。

そんな時代に対して、人種平等を訴えた、あまりにアヴァンギャルドにしてプログレッシブ過ぎる(笑)映画は公開しても、観客の大多数である白人は誰も見に来ない。

 

1934年、レニ・リーフェンシュタール「意志の勝利」も、

1939年、ヴィヴィアン・リークラーク・ゲーブル風と共に去りぬ」も、

当時の倫理観ならば、当たり前の映画だった。そして、どっちも名作だ。

 

1962年、吉永小百合の日活「キューポラのある街」も、同じ運命にある。

 

この映画では、差別感情をまったく持たない、正義感にあふれた、一点の曇りもない善良な少女=吉永小百合が、

彼女のかけがえのない親友の、家庭を無理矢理に引き裂き、日本人の母(必殺シリーズのせん=菅井きん)を日本に残したまま、朝鮮人の父と日韓ハーフの子供たちを積極的に「この世の地獄」へ送り込む。

21世紀の今の視点から見れば、帰国者には陰惨と絶望と飢餓の明日しかないのが判ってしまっている。

吉永小百合は、完全な善意で、親友の人生を無茶苦茶に破壊する。 

 

親友を地獄に落とす「キューポラ」の吉永小百合の晴れやかな笑顔は、

ユダヤ人を殴る「意志の勝利」のヒトラー・ユーゲントの凛々しい笑顔や、

白人に使われる「風と共に」の黒人奴隷の田舎者丸出しのおどけた笑顔と、

同じなのである。

 

当時の日本は、60年安保の余燼冷めやらぬ、戦後高度経済成長前夜。

日本の世論は今より、はるかに左で、戦争嫌い、軍人嫌い、庶民もはるかに貧乏で、やっとこさ白米のご飯が何とかなった、いまだテレビも冷蔵庫もない、社会主義に夢と理想を見ていた時代だ。

 

韓国は1961年に朴槿恵元大統領のご尊父・朴正煕将軍が軍事クーデタで政権を取った時代。

軍人嫌いの日本の世論は、もともと日本人にある朝鮮人差別感情と相まって、韓国を嫌悪した。

相対的に評価が上がったのが、夢の社会主義を実現している北朝鮮だった。こっちは朝鮮人への贖罪感情がさらに評価を上げていった。

 

もちろん、ごく少数の保守派や、すでにソ連の非道を知りぬいていたシベリア帰りの日本人や、朝鮮戦争を経験した民団系の在日韓国人など、北朝鮮の正体を批判している人もいたにはいたが、あくまでも少数派だった。

左翼は、中には「これは、北朝鮮内部も、ヤバいんじゃないか?」と思われる情報もあったのに、あらゆる情報を、都合の良い方向にしか解釈しなかった。

大多数の日本人は、北朝鮮の正体なんて、知ろうともしなかった。

 

無関心と、誤った過大評価が、数十万人の在日朝鮮人を、はるかにマシな日本から、この世の地獄に送り込んだ。そして、積極的に「地獄直送便」を後押しした、良心的日本人もいた。

 

1930年代のドイツ人やアメリカ人が間違ったのに、

1960年代の日本人や在日朝鮮人が間違ったのに、

2017年の日本人や韓国人がいっさい間違っていない、ワケがないのだ。

20XX年の人々からは、丸見えなのである。

 

1962年の吉永小百合は、2017年のわれわれなのだ。

 

そういう、「時代」という、どうしようもない存在を実感するためにも、その生き証人として、日活「キューポラのある街」をぜひご鑑賞いただきたい。

  

しかし吉永小百合という女優さんは不思議な存在だ。

日活時代の彼女は文句なしに素晴らしいのだが、その後の東映、平成になってからの東映と組んだ映画は、次から次へと大惨事を引き起こしている(笑)。

 

追悼 #渡瀬恒彦 ~東映「狂った野獣」「暴走パニック大激突」「銀蝶渡り鳥」「ずべ公番長」松竹「皇帝のいない八月」「配達されない三通の手紙」 - 在日琉球人の王政復古日記

吉永小百合は、評価の難しい女優さんだ。

日活時代は確かにアイドルでありスタアだった。

しかし、歳を取ってからは、ロクな映画に出ていない。

どんなに名監督でも、主演の彼女に焦点を当てれば当てるほど、駄作・凡作の乱れ打ちになる。

特に、近年の「吉永+東映」のコラボは、「ウナギ+梅干」以上の破壊力で、金券ショップの邪魔者になっている(笑)。

理由はホントによく判らない。

彼女の演技が上手いとは言わないが(笑)、間違いなく問答無用で美人だし、彼女並みの演技下手な女優さんでも、映画自体は面白い、という女優や映画は山ほどあるのに、不思議である。

 

最近の「吉永+東映=大惨事」ではなく(笑)、1962年の日活「キューポラのある街」は、娯楽映画、青春映画としても名作である。

昭和を代表する「アイドル女優」若き吉永小百合の代表作でもある。

政治抜きでもおススメしたい。

 

お笑い政治論争(6) #YellowFace オードリー・ヘプバーン「ティファニーで朝食を」(1961)VS #BlackFace 浜田雅功「ガキ使」(2017) - 在日琉球人の王政復古日記

 

田中邦衛1960年代映画地獄巡礼~東宝「若大将」VSフジテレビ俳優座「若者たち」VS東映「網走番外地」 - 在日琉球人の王政復古日記

 

1962年の在特会(笑)~東宝「日本一の若大将」~カミナリ族、オート三輪、ミッチーブーム、そして嫌韓。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

朝鮮への視線~息子加山雄三の戦後1962年東宝映画「日本一の若大将」VS親父上原謙の戦前1936年松竹映画「有りがたうさん」 - 在日琉球人の王政復古日記

 

宿主・日本資本主義と、共に栄え、共に沈む、寄生虫・朝鮮総連(および北朝鮮)。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

日本文化「朝鮮学校チマチョゴリ制服」を保護せよ~國士舘も「蛇腹」復活! - 在日琉球人の王政復古日記

 

《慰安婦映画列伝》東宝「血と砂」(1965)~戦場の大和撫子・お春さん(金春芳)~「ごめんなさい」ではなく「ありがとうございました」を。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

東映映画~明友会「実録外伝 大阪電撃作戦」VS柳川組「日本暴力列島 京阪神殺しの軍団」~「在日朝鮮人VS部落」なんてウソ。 - 在日琉球人の王政復古日記