イスラエル、パレスチナ、クリスチャン・シオニズム(その1)~ナチスは右翼?左翼?トランプは右翼?左翼? - 在日琉球人の王政復古日記
の続き。
イスラエル/パレスチナ問題は、政治と思想、2つの意味で、イギリスに始まる。
まず政治的には、イギリスの三枚舌外交。
イギリスは、第一次世界大戦中に以下の三つの協定を結んでいた。
1915年フサイン・マクマホン協定(オスマン帝国からのアラブ独立)
1916年サイクス・ピコ協定(英仏露による中東分割)
1917年バルフォア宣言(パレスチナにおけるユダヤ移住支援)
それぞれ、敵国オスマン帝国への牽制、同盟国フランスとの協調、戦費調達のためユダヤ資本への配慮だ。
そして、1つの土地を、言葉の上では3つの勢力に与えるわけで、現実問題としては3つの勢力が衝突する。
全ては、100年前の世界覇権闘争・英独対立≒第一次世界大戦の副産物だ。
第二次世界大戦も、第一次世界大戦の後始末の失敗、後半戦である。
英語圏(イギリス・アメリカ)に代わって、20世紀世界をリードする可能性があったドイツ語圏(ドイツ、ハプスブルグ帝国)は、2つの大戦で叩き潰され、ヨーロッパ・ローカルの勢力に格下げされる。
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ドイツ・ナチズムのアーリア至上主義、ユダヤ人迫害は、ドイツ・ワイマール共和国だけでなく、オーストリア、チェコ、ポーランドをはじめとした東ヨーロッパにまで広がった。
この地域は、ドイツ語を話す住人も少なくなく、母国語でなくてもドイツ語を解する人々がたくさんいた「ドイツ語文化圏」だった。
これらの広大な「ドイツ語で話し/書き/考える人たちの文化圏」から、ナチズムに相容れない、主としてユダヤ系を中心として、膨大な亡命者が域外へ流出することになる。
その中には、20世紀を代表する知性が沢山いた。
アルベルト・アインシュタイン@相対性理論
エルヴィン・シュレーディンガー@量子力学
クルト・ゲーデル@数学
ハンナ・アレント@政治思想
レオ・シュトラウス@政治哲学
ヘンリー・キッシンジャー@国際政治
ハンス・モーゲンソー@国際政治
ルートヴィヒ・フォン・ミーゼス@経済学
フリードリヒ・ハイエク@経済学
ピーター・ドラッカー@経営学
カール・ポランニー@経済人類学圧巻である。並べただけで、スゴイね、どうも。
もしも、ナチが政権を取ってなければ、彼ら彼女らの大半はその後も中央ヨーロッパで暮らし、ドイツ語で考え、ドイツ語で話し、ドイツ語で出版し、それらの知性はすべて20世紀のドイツ語文化圏の財産になっていたはずなのだ。
しかし、その大部分は、いろんな経緯はあるにしても、最終的には大西洋を渡って、さまざまな民族が雑居する「まだまだ若くて粗野な田舎大陸」アメリカ合衆国へ流れ着く。
もしも、イギリスプレミアリーグ、イタリアセリエA、ドイツブンデスリーガが解散して、選手が数百人単位で日本に亡命したら、Jリーグの試合内容や技術レベルはどうなるか?
20世紀前半アメリカの学問や思想の世界で起こったことは、そういう事態である。
戦後のアメリカが世界を支配する大国になったのは、持ち前の経済力だけではなく、ドイツから流れ込んだ世界的な人材のおかげでもあるのだ。
逆に、ナチスの支配した「ドイツ語文化圏」は、わずか数年で、それらの奇跡的な才能を一気に失うことになった。
戦後から21世紀のドイツは、何か生み出せたか?
たかが高品質の自動車と、貿易黒字くらいのものだ。自動車なんか極東の島国でも作ってる(笑)。戦後のドイツは、日本やアジア新興国と同じレベルの産業くらいしか誇れるものがない普通の経済大国に堕ちてしまったのだ。
第一次世界大戦の副産物「バルフォア宣言」でイスラエル建国運動が始まり、
第一次世界大戦の後始末の失敗・ナチスドイツの第二次世界大戦で、ユダヤ人ホロコーストが起こる。
ドイツだけでなくヨーロッパ全体がユダヤ人に罪悪感・負い目を感じ、1948年イスラエル建国からのパレスチナやりたい放題の横暴に文句が言えなくなる。
イギリス三枚舌外交の後始末は、イギリスの後継覇権国アメリカが引き継ぐ。
新たにイスラエル/パレスチナ問題の責任者になったアメリカで、ワシントンではなく、外交に無関係な田舎の中部南部で、異様な思想的変動が起こっていた。
イスラエル建国の思想「シオニズム」という名称は、19世紀末オーストリアユダヤ人ナータン・ビルンバウムにより考案された、
とされるが、実は、ずっと前、17世紀イギリス・プロテスタント、ピューリタンの中に「すべてのユダヤ人はヨーロッパを離れて祖国パレスチナへ帰るべきだ」という思想が生まれた。これがシオニズム、特にクリスチャン・シオニズムの始まりだ。
結論から先に書けば、クリスチャン・シオニズムは「親ユダヤ主義」ではない。
17世紀イギリスのピューリタンも、後継者である19世紀末アメリカのクリスチャン・シオニストも、否定するだろうが、その本質は「反ユダヤ主義」である。
クリスチャン・シオニズムの深層心理は「ユダヤ人は、オレたちキリスト教徒の目の前から消えろ。キリスト教圏から出て行け」という「反ユダヤ主義」なのである。
親韓派日本人なら、在日コリアンに「祖国があるんだから、韓国で幸せに暮らしたらどうか?」 とは言わない(笑)。「韓国に帰れ」は嫌韓派のセリフだ。
本当に親ユダヤならば、「違いを認め合って、同じヨーロッパでアメリカで、一緒に仲良く暮らそうじゃないか」と言うだろう。
だからナチスに対立するのではなく、ナチスに共通する部分がある。
ナチスは「ユダヤ人は目の前から消えろ。ガス室で燻蒸してやる」。
クリスチャン・シオニズムは「ユダヤ人は目の前から消えろ。エルサレムをくれてやるからそこで住め」。
手段が違うだけで、目的は同じだ。
ユダヤ人シオニストは頭が良いから、クリスチャン・シオニストの深層心理を知っている。知っていながら、イスラエル建国に利用したのである。
もちろん、クリスチャン・シオニズムは「ユダヤ人は出て行け」という消極的理由だけではない。「ユダヤ人がイスラエルに帰ることは、われわれキリスト教福音派の最終目標の成就になる」という積極的理由がある。
ローマ帝国にとって、皇帝を崇拝しないユダヤ人は鬱陶しい異分子であり続けた。何度もユダヤ人を弾圧している。
2020年前、ユダヤ教から、ナザレ派ともイエス派とも言うべき分派が出てくる。
ユダヤ教ナザレ派は本家ユダヤ教と異なり、異教徒ローマ人にも布教を始めた。信者がどんどん増えた。ローマ帝国はユダヤ教以上にナザレ派も弾圧する。
ナザレ派=原始キリスト教の新約聖書には、弾圧してくるローマ帝国、自分たちを認めないユダヤ教主流派、双方への憎悪がテンコ盛りだ。
ローマ帝国・ユダヤ教・キリスト教、三つ巴の戦いで、ローマ帝国とキリスト教の歴史的同盟が成立する。ローマ帝国もキリスト教も反ユダヤ主義で一致した。
誕生当初からキリスト教には「全てのユダヤ教徒は《真のユダヤ教》であるキリスト教に改宗すべきだ」という強迫観念があり、21世紀の今でも続いている。
古いカトリックや正教も、最初は改宗を強要したが、ユダヤ教徒のあまりの頑固さに諦めて、妥協が成立する。
実はイスラムも同じで、ムハンマドに新しい宗教を作ったつもりはない、堕落したユダヤ教・間違ったキリスト教を正し、《真のユダヤ教》=イスラムを復活させたのである。
ムハンマドはユダヤ人もキリスト教徒も喜んで改宗すると思っていたが、そうはならず、殺し合いに発展した。
新しいプロテスタントもまた同じことを繰り返す。
「腐ったカトリックから、正しいプロテスタント=《真のキリスト教》=《真のユダヤ教》に生まれ変わった。腐ったカトリックを拒否したユダヤ人も、正しいプロテスタントなら喜んで改宗するはずだ」という片思いがある。
そして、カトリックや正教やイスラムと同じで、片思いは拒否され、可愛さ余って憎さ百倍、強烈な反ユダヤ主義になる。
プロテスタントはどれもこれもアルプスの北側で成立している。布教に成功したのも、ドイツ、オランダ、イギリス、スカンジナビア、大きくゲルマン系である。
カトリックへの反発は、教義よりも何よりも、「どうもラテンとは肌が合わない」という、ゲルマン系のエスニシティだ。
カトリックがラテン一枚岩の諸民族連合=インターナショナリズムなのに比べて、プロテスタントは国別に分かれていく。彼らが翻訳した現地語の聖書が、それぞれ民族語の基礎となる。
その後、近代化の中で、ナショナリズムはカトリック地域、正教地域にも広がる。
だから、イングランド・プロテスタント・ナショナリズムに反発したアイルランドや、ドイツ・プロテスタント・ナショナリズムとロシア・正教・ナショナリズムに挟まれたポーランドは、逆にカトリックを選んだ。
これもまたアイルランド・ナショナリズム、ポーランド・ナショナリズムである。
ヨーロッパ各地の国民国家形成の過程で、またまた独自の生活を固守する異民族ユダヤ人が邪魔にある。反ユダヤ主義が爆発する。
宗教とナショナリズムだけでなく、ヨーロッパで生まれた近代思想、イギリス経験論も、大陸合理論も、ロマン主義も、啓蒙思想も、人権思想も、資本主義も、共産主義も、アナキズムも、実存主義も、ほぼ例外なくユダヤ問題を考察している。そしてほぼ例外なく反ユダヤ主義的傾向がある。
アナキストのプルードンも、実存主義のニーチェも、ユダヤ人マルクスでさえ、ユダヤ教・ユダヤ人には極めて冷淡・否定的だ。
ユダヤには全ての思想家をムカつかせる(笑)「何か」がある。すべてを理屈で割り切る思想は、割り切れないユダヤという存在を嫌うのだ。
ヨーロッパで反ユダヤ主義の無かった国は無い。
特に酷かったのが、ドイツ、ロシア、ポーランド、ウクライナ。ちょうど、第二次世界大戦の独ソ戦の舞台だ。これは偶然ではない。
ナチスのホロコースト以前には、ロシアやウクライナでは「ポグロム」というユダヤ人虐殺が何度も発生している。
「屋根の上のバイオリン弾き」は、ポグロムを逃れてアメリカに移民したロシア系東欧系ユダヤ人のミュージカルだ。
イスラエル、パレスチナ、クリスチャン・シオニズム(その3)~王国再建→携挙→ハルマゲドン→再降臨→千年王国→最後の審判 - 在日琉球人の王政復古日記
に続く。