在日琉球人の王政復古日記

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小田急線10人刺傷対馬悠介容疑者のライバルたち~東日本大震災直前~地方国立大学の辛さ

小田急線乗客10人刺傷事件で36歳容疑者送検 女子大生への殺人未遂疑い - 社会 : 日刊スポーツ

2021年8月8日
東京都世田谷区内を走行中の小田急線で乗客10人が刃物で刺されるなどした事件で、警視庁成城署捜査本部は8日、女子大学生(20)への殺人未遂の疑いで逮捕した職業不詳、対馬悠介容疑者(36=川崎市多摩区)を送検した。
(略)

 

#サラダ油 こそが事件の本質~小田急線10人刺傷~幸せそうな女性を見ると殺したい~殺人の9割は家族知人。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

小田急線10人刺傷~重要な事を、途中で、いとも簡単に、諦めてしまう、対馬悠介容疑者36歳 - 在日琉球人の王政復古日記

の続き。 

 

残念なことに、対馬悠介36歳くんは孤独ではない。

彼のライバルは、昔からたくさんいた。

 

対馬悠介36歳くんは、直接には、女でしくじった(と自分で思っている)が、

その背後には就職のしくじりがあり、

その背後には大学のしくじりがあった。

 

男は、女を諦めても、モテを諦めても、頑張って大学をしくじらなくても、

バブル絶頂期みたいな例外は除いて、就職だけは、ストレスなしに成功する人は、恐ろしく勉強ができるか、恐ろしく幸運である。

そして、バブル崩壊期以降に就活時期を迎えた世代を見れば判るように、本人の努力ではどうしようもない、時代の運不運が、人生には確実にある。

大東亜戦争直前に青春を迎えた世代は、時代を怨むしかない。

 

古すぎてリンク切れだが、東日本大震災の2週間前、こういう「就活生」がいた。

(※注:個人名は削った。個人名は問題の本質ではないからだ。)

 

「みんな死ぬんだ」叫ぶ容疑者…バス横転の恐怖
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110226-OYT1T00443.htm
※リンク切れ
 2011年2月26日
 広島県東広島市の山陽自動車道下り線で、25日深夜、高速バスのハンドルを切って、バスを横転させ、殺人未遂容疑で現行犯逮捕された鹿児島市荒田、鹿児島大3年※※※※容疑者(22)。
 深夜の高速バスで起きた突然の出来事に、搬送先の病院で取材に応じた乗客らは恐怖を隠しきれない様子だった。
 前から3列目に座っていた大阪府守口市、大工ーーーーさん(38)は、後方から運転席に向かうスーツ姿の※※容疑者を目撃。消灯されて真っ暗な車内で、「降ろしてほしい」という声が聞こえた。やがて※※容疑者は「殺してくれ、俺は殺される」などと叫んでドアをけり始めた。
 同乗していた別の運転手(43)が制止しようとすると、※※容疑者はハンドルをつかみ、事故を起こしたという。ーーさんは別の男性(70)と一緒に、後方に戻ろうとする※※容疑者を取り押さえたといい、「一瞬のことで、何が起きたのかすぐにはわからなかった」と話した。
 大学受験の帰りだった鹿児島市のーーーさん(19)は、「これでみんな死ぬんだ」と※※容疑者が叫ぶのを聞いた。「刃物を持っているのでは」と怖くなり、割れたフロントガラスから車外に逃げた。

 

鹿大就活生22歳くんは、本当に運が無かった。

 

あと2週間たてば、東日本大震災だった。

鹿児島の彼は、東北の大震災で被災する可能性は無かっただろうが、大震災のニュースを見れば、精神状態はかなり変わっただろう。

大阪企業の人事担当だって、会社の事情が激変し、採用方針が変わったかもしれない。

その変化は、就職が難しくなる方向だろうが、状況が状況だけに、彼だけじゃなく就活全員が不利になって、逆に諦めもつく。精神的には楽になっただろう。

夜行バスの中でストレスが臨界点を超え、バスを横転させる悲劇も無かったかもしれない。

 

バスを横転させて、逮捕された後、留置場の鹿大就活生22歳くんの心境は如何なるものだったか?
「なんであんな事をしたのは自分でもわからない」という茫然自失と、
「なんて事をしてしまったのか!?オレの人生は終わりだ!」という後悔と、
そして同時に、「ああ、これで、今夜から、エントリーシートを書かなくて済む。会社説明会の夢にうなされなくて済む」というホッとした安堵と。
 

「地方国立大学の辛さ」というのは確かにあるだろう。

 

地元生まれで、頭は悪くない。努力もした。親も満足の大学だ。プライドもある。

しかし、卒業後、地元に就職先が無い。役所か、地銀か、観光産業か、狭き門だ。

就活は、首都圏や京阪神しかない。

ライバルは、関東出身か、関西出身か、4年前に首都圏や京阪神に出てきた、都会経験者だらけだ。

彼ら彼女らにとって、丸の内や御堂筋までの地下鉄乗り換えなんて生活の一部だ。

首都圏在住就活生、京阪神在住就活生は、4年前から戦場で軍事演習を受けてきたベテラン兵士である。

スマホにインストールした路線図を見ないと一歩も動けない地方国大就活生は、いきなり右も左も判らない最前線に放り込まれた新兵である。

慣れないリクルートスーツ、結び方もネットで練習したネクタイ、サイズの合わない革靴。交通手段は長距離夜行バス。

会社説明会エントリーシート、面接で削られるプライド、希望、体力。

愚痴を言える友達もいない。夕食は牛丼かマクドか。

シャワーもベッドも、長距離夜行バスで戻った後だ。

これで何回目の往復か? まだ続くのか? 終わりは来るのか?

 

降ろしてほしい

殺してくれ、俺は殺される

これでみんな死ぬんだ

 

そりゃ、孤独な深夜バスの中で発狂するのも当たり前である。

 

地元で骨を埋める計画じゃなければ、経済的に厳しいが、志望をワンランク落してでも、18歳か19歳の時点で、地元を離れて首都圏や京阪神の大学に行った方が、就職を考えたら、楽だと思う。

 

その時代の地獄、その世代の辛さ、というのは確実にある。しょせんは相対的だ。辛かったら、泣き言を言っていいんだよ。甘ったれて良いのだ。

まあ、バスを横転させちゃマズいけど(笑)、カラオケボックスでも借りて絶叫していいんだよ。それはあなたたち就活生の権利だ。

 

狂って当たり前ではあるが、鹿大就活生22歳くんが他人に大迷惑をかけたことは消えない。

まず、同乗の見ず知らずの他人を殺しかけたのは罪だ。大阪と鹿児島を深夜走行する高速バスの乗客だって、そんなに人生の勝ち組とは思えない。彼ら彼女らだって泣きたい思いの一つや二つ抱えてバスに乗っていただろう。

必死で商売しているであろう高速バス会社の何千万円もする資産をオシャカにしたのも罪だ。高速バスの運ちゃんだって、揺れるバスの中で仮眠を取りながら必死で働いている。鹿大就活生22歳くんより、学歴でも経済でもキツイ人生を送ってきた可能性はある。それでも眠気と戦いながら、疲労と戦いながら、深夜の道路をかっ飛ばすのである。

 

もう10年前である。すでに娑婆に戻っているだろう。

鹿児島にいるのか?大阪か?福岡か?東京か?それは知らないし、知りたくもない。知ったところで、私には何もできない。

 

ただ、大迷惑をかけたバス会社には謝りに行くべきだとは思う。門前払いかもしれないが。

 

バスを横転させた馬鹿を見て、オレだけじゃないんだなあ、と思う事と、

バスの運転手の背中を見て、オレだけじゃないんだなあ、と思う事は、

同じなのだ。

それを「人生」と呼ぶのだと、あらゆる意味で、鹿大就活生22歳くんとドッコイドッコイの私は思うのよ。

 

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