在日琉球人の王政復古日記

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BNPL(ツケ払い)=落語「掛取万歳」=大福帳VS三井越後屋「現金掛値無し」

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ゾゾの「ツケ払い」利用者が100万人を突破 利用者の7割は女性 (WWD JAPAN.com) - Yahoo!ニュース

2017/8/18(金)
 ファッションEC「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」を運営するスタートトゥデイが18日、支払いを2カ月延長できる決済サービス「ツケ払い」の利用者が100万人を超えたことを発表した。これに合わせて、同社は「ツケ払い」の利用者属性を初めて公開。利用者の男女比では、女性が68%と過半数を占めることが分かった。また、年齢別では、20代の利用が最も多く全体の41.2%。続いて30代が全体の25.7%だった。
 「ツケ払い」は2016年11月にスタートした決済サービス。クレジットカードを利用することなく支払いを注文の2カ月先まで延長できるため、一時は支払いのできない若年層が利用するのではないか、といった指摘が相次いだ。しかし、17年4~6月期決算でも商品取扱高が前年同期比40.9%増の595億円まで伸長するなど、「ツケ払い」の利用者増が好調の大きな要因の一つになっていることは間違いない。

 

およそ350年ぶりの先祖帰りか。同じアパレル屋というのが因果を感じる。

 

しかし、私のブログに、ZOZOTOWNなるものが登場する日が来るとは思わなかった。自分で言うのもなんだが、食い合わせが悪すぎる(笑)。

私は、ファッションにからっきし興味がない。

おそらく、ファッションの方でも、私には興味がないだろう(笑)。

だから、ZOZOTOWNという会社?も名前くらいしか知らない。たぶん一生利用することは無い。

 

そのよく判らない会社、ZOZOTOWNが、「ツケ払い」を始めたそうな。

それに対して、ネットでは「カネも無いのにモノを買うなんて、欲望のガマンがきかないダメ人間だ」みたいな批判もあるようだ。

しかし、極楽浄土にいるだろう彼らのご先祖様たちがその批判を聞いたら「おいおい、じゃあオレたちゃダメ人間かよ(笑)?」と苦笑していることだろう。

なぜなら、皆さんのご先祖様たちは、おそらく何世代にも渡って、ZOZOTOWNと同じツケ払いで日常生活を送っていたはずだからだ。

 

つまり、ZOZOTOWNのツケ払いの方が、本来の日本の日常であり、商売の「保守本流」なのだ。 

逆に、現在のわれわれがコンビニでやっている売り買い=現金決済の方が「亜流」「邪道」だったのだ。

 

そもそも、ZOZOTOWNを批判してる人は、だいたい1980年代くらいから現在まで、自分の生きていた時代を「日本の歴史」「日本の伝統」だとカン違いしているのである。歴史というのは、あなたの生まれるずっと前からあるのだ。

時代劇でも出てくる、大店の商家にある、日めくりカレンダーの親玉みたいなノート「大福帳」、あれがZOZOTOWNの「ツケ払い」の源流だ。

 

「商品先渡し、代金後払い」、これがZOZOTOWNのツケ払いだが、そういう売り買いを、売る方の立場で言えば「掛け売り」と呼ぶ。

掛け売りで、まだ支払ってもらってない、未来の現金を「売掛金」と呼ぶ。

大福帳とは、その売掛金の帳簿である。

江戸時代の「店を構えている」ほとんどの商人は大福帳を持っていた。

つまり江戸時代のマトモな商人のほとんどが、大小を問わず、業種を問わず、商品先渡し、代金後払い、の掛け売りで商売していたのである。

たとえば、最初に相手の家へ薬をまとめて置いて行って、使った分だけ、後で支払ってもらう、「富山の薬売り」も、この系統である。

 

江戸時代の商売の王道は、コンビニではなく、ZOZOTOWNだったのだ。

 

その売掛金未来の売り上げ、未来の収入は、すべて大福帳に書かれている。

もし、大福帳を失ったら、売掛金を回収できない。その商人は破産だ。

商人にとって、命の次、いや命よりも大事だったのが、大福帳というわけだ。

江戸時代は火事も多かったが、火事になると、商人の行動の第一は、油紙に包んだ大福帳を井戸に放り込むことだったらしい。大福帳さえ無事ならば、あとは何とかなるのである。

 

ただし、掛け売りは「店を構えている」商人である。

不動産を持たない、露店、屋台、行商など小規模の商人は別だ。屋台の二八蕎麦は、掛け売りではなく、食ったその場で現金決済である。

そして、掛け売りと現金決済、どっちがグレードの高い商売かといえば、圧倒的に掛け売りだった。

今とは感覚がサカサマだが、現金決済のコンビニの方がレベルの低い商売人であり、掛け売り、ツケ払いのZOZOTOWNの方が、信用できる本格的な商売人だったのだ。

 

大福帳には、売った相手、売った日付、売った品物、売った代金などが記入されている。

支払期日は、通常書かない。というのは、それは慣習で決まっている。

ZOZOTOWNのツケ払いの支払期限は、買った日から2か月後までらしいが、

江戸時代は買った日から計算しない。9月に買っても11月に買っても、支払期限は歳の終わり大晦日だ。年に2回の盆暮れがデッドリミットだった。

 

盆暮れになると、

呉服屋は、売った反物の代金を、買った人間から一斉に回収する。

機織り業者は、卸した反物の代金を、呉服屋から一斉に回収する。

蚕農家は、卸した絹糸の代金を、機織り業者から一斉に回収する。

そこで、半年分の商取引の決済が完了する。

 

当然、盆暮れになったら、カネはないわけで(笑)、いろいろ悲喜劇が起こる。

落語「掛取万歳」は、その盆暮れの「カネ払え!」「いやカネはない!」の攻防を面白おかしく描いている。

 

この、商品先渡し、代金後払い、というシステムが、いったい、いつから始まったか?、までは知らないが、江戸時代の前、鎌倉時代室町時代には、すでに徳政令徳政一揆が勃発していた。

つまり借金をチャラにしろ、という要求だ。

一揆の農民や馬借は、当時の金融業者である土蔵や酒屋に乱入して、借用証文を焼き捨てたりしたらしい。この借用証文が大福帳の原型だろう。

鎌倉時代室町時代の借金も、おそらく純粋なキャッシングよりは、商品を買った代金・売掛金の方が多かったのではなかろうか。

 

ZOZOTOWNのツケ払いも、江戸商人の大福帳も、買った側は、商品と一緒に「支払い猶予」つまり「時間を買ってる」のも同じなので、一種の借金なのである。

 

商品先渡し、代金後払い、この従来の商法に革命がおこったのが、江戸時代初期、三井高利越後屋呉服店、後の三井財閥、今の三井グループの元祖だ。

彼のニュービジネススタイルが、購入時点で一括現金払いの定価販売「現金掛値無し」である。

簡単に言えば、われわれが毎日コンビニでやってる売り買いと同じだ。

ローソンでもセブンイレブンでも、明太子おにぎりの代金は、その場で支払う。

130円は今年の大晦日に一括返済ね、という売り方はしていない。

 

大福帳商売には、必ず、買った方の資金ショート、売掛金の回収不能、つまり焦げ付きのリスクが付いて回る。

よって、売る方も、最初からそのリスクを計算して、価格には前もってリスク料を上乗せする。そのため、どうしても商品は割高になる。

三井の現金掛値無しならば、代金を回収できないリスクがないから、その分だけ最初から割引できる。

買う方としては、その場で現金がないと何も買えないデメリットがあるが、その分、価格は安いメリットがあるわけだ。

 

売る方も買う方も、トータルで考えれば、現金掛値無しの方が得なんで、三井は大繁盛して、それを元手に日本トップの財閥になった。

しかし、現金掛値無しが発明された後になっても、他の商人は全面的には現金掛値無しに転換しなかった。

江戸時代を通じて、大福帳商売が当たり前の多数派だったし、江戸時代どころか、明治大正昭和、近代資本主義になっても、商品先渡し、代金後払い、は普通に行われた。

一番上の画像も、年号を見れば「昭和十三年」であり、つい最近まで、大福帳は現役だったのだ。小規模商店では、戦後も普通に使われていた。

 

明治になっても、昭和に入っても、一般庶民は、毎日の買い物はツケで買って、盆暮れ、または、月末に支払ったのだ。

昔は、コンビニもない、スーパーマーケットもない、デパートもない。近所にある顔なじみの米屋、酒屋で買う。

大福帳商売だった昔の米屋や酒屋は、自分たちから積極的にお客さんの家まで注文を取りに来る。重たい品物も持ってくる。一種の訪問販売、ルートセールス、いわゆる「御用聞き」である。この御用聞きが盆暮れや月末の売掛金回収係でもある。

このタイプの商売は、戸別に新聞配達してくれる新聞代理店などに、まだかろうじて残っている。

 

名前も住所も知らない、どこの誰とも判らない人物が、ふらりと店にやってきて、品物を購入して、その場で現金決済して、さようなら。

そういう現金掛値無しの商売が、一般庶民の日常にも浸透してきたのが、当ブログの毎度おなじみ(笑)戦後高度経済成長時代である。

今はなき、スーパーマーケットの元祖「ダイエー」が開店したのが、1957年。戦後高度経済成長のスタートである。

そして、現金掛値無しのダイエーが全国展開していき、コンビニも誕生し、大福帳商売だった地元の米屋や酒屋をどんどん潰していったのである。

 

さて、昔の大福帳商売と、今のコンビニ商売、どこが一番違うのか?

 

昔の大福帳商売とは、つまりは、会員制ビジネスなのだ。

売る側は、買う側がどこの誰か、名前も住所も、おそらく経済状態も、全部把握しているメンバーシップ内の商売なのだ。

だから、フラッとやって来た旅行者は、大福帳商売では「一見さんお断り」でモノは売ってくれない。なぜならどこに住んでるか判らないから、盆暮れの回収が不可能だからだ。

逆に、どこに住んでいるか知っているメンバーだったら、手持ちのカネが無くてもモノを売ってくれる。

 

今のコンビニ商売は、誰でも買える。

外国人旅行者でも区別はない。いちいちパスポートを調べない。

ただし同時決済である。

毎日買いに来る常連客でも、財布忘れたから後で支払う、は通常しない。

 

昔の大福帳商売は、経済が経済で独立していない。経済は地域共同体の一部なのだ。

今のコンビニ商売は、経済が経済で独立している。経済と地域共同体は分離している。

 

当時から商人たちは、三井の現金掛け値なしが合理的で儲かることは誰でも理解していただろう。しかし、なかなか現金掛け値なしには移行しなかった。

それは、商人も地域共同体の一員であり、商売は利潤追求だけでなく、互助、再配分など地域共同体の一機能を担っていたことがあるのだろう。

 

歴史なんてホントは勉強する必要のないヒマ人のムダな学問ではあるが、もしも役に立つケースがあるとすれば、こういう場面で思い出して活用しないと意味がない。

戦国武将と慰安婦が歴史ではないのだ(笑)。

 

以上、ZOZOTOWNのツケ払いも、昔の大福帳商売と同じ、大昔からある伝統の会員制ビジネスだ。なにも、平成になってから始まった、怪しい商法ではない。

しかし、同じということは、平成令和版「掛取万歳」が続発することもまた予想できる。

昔からあるから、安全安心というわけでもない。人間の歴史は昔から今に至るまで、ずっと危険なのである。