在日琉球人の王政復古日記

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《親米保守映画列伝》東宝「若大将」シリーズの10年戦争(その2)~加山雄三VS渥美清&高倉健~太平洋戦争再び

《親米保守映画列伝》東宝「若大将」シリーズの10年戦争(その1)~身分違いの恋だから。 - 在日琉球人の王政復古日記

の続き。

 

若大将の実家は明治から六本木で店を構えるすき焼き屋「田能久」。中産階級だがタイプ的には「古い」中産階級である。

時代は戦後高度経済成長がスタート、新しいサービス産業が生まれ、「新しい」中産階級が登場する時代である。

田能久も、近所に「黒馬車」という新しいステーキハウスが出店して、商売が押されつつある。

 

地元に根ざし昔からの商売を守り続ける老舗。
金の力にモノを言わせてヨソから乗り込んでくる新興勢力。
戦後高度経済成長時代以降の日本の映画にはこういう対立構造がよく出てくる。

 

 加山雄三の「若大将」シリーズだけでなく、森繁久彌の「社長」シリーズ、「駅前」シリーズ、植木等の「日本一」シリーズ、東宝の喜劇映画シリーズのほとんどにこの対立構造が出てくるといっていい。

 

東宝だけでなく、東映も松竹も同様だ。
鶴田浩二高倉健東映仁侠映画も話の基本は、善良な老舗ヤクザと、悪辣な新興ヤクザとの戦いである。
松竹はあんまり戦わないが、渥美清の「男はつらいよ」の実家は門前町の老舗団子屋「とらや」だ。寅さんは旅する各地でも「とらや」のような古い家業を守る人々と交流する。流通資本が建てた郊外型アウトレットモールで買い物をしたりはしない。

 

そう、東映も松竹も、基本として、古い勢力が「善」であり、新しい勢力は「悪」なのだ。

しかし東宝は違う。新しい勢力は基本として「善」であり、古い勢力は「悪」とはいわないものの消え行く存在なのだ。

 

若大将は新しいモノが好きな若者だし、森繁はニュービジネスに邁進する社長であり、植木は大企業で活躍するスーパーマンだ。
東宝映画では、新しいビジネスは常に成功し、古い業界もニューモデルを受け入れでイノベーションして再生するのである。

若大将の古いすき焼き屋「田能久」と新しいステーキハウス「黒馬車」の対立も、古い「田能久」のほうがすき焼き一本やりを止め、鉄板焼やバーベキューという新規事業をスタートさせて巻き返すのである。

 

もしも、東映任侠映画なら、新興勢力「黒馬車」がインチキ肉で悪どい商売をやりまくり、「田能久」を潰そうと嫌がらせを仕掛けるだろう。そしてガマンにガマンを重ねた若大将が背中の唐獅子牡丹と共についに「黒馬車」に乗り込んで制裁する展開だ。

 

もしも、松竹「男はつらいよ」なら、「田能久」のように、「とらや」も売れない古臭い団子を止めて、大手食品メーカーからシュークリームやロールケーキを仕入れて商売し、郊外のショッピングモールにも「NEWとらや」出店する、、、なんて展開には絶対にならない。なにより監督の山田洋次が許さない(笑)。

 

松竹「男はつらいよ」車寅次郎VS東映「トラック野郎」星桃次郎~【追悼】高倉健&菅原文太&渥美清。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

戦後日本の新しいモノは、新しいビジネスは、海外からやってくる。ずばりアメリカからやってくる。

戦後高度経済成長は、アメリカから怒涛のようにやってくる新しいモノに、戦争でも生き残った日本の古いシステムが改変させていく時代である。

 

東映も松竹も、古い勢力が「善」であり、新しい勢力は「悪」という構図なのは、その背後に、慣れ親しんだ古き日本は「善」で、金の力にモノを言わせて海の向こうからやって来るアメリカが怖い「悪」なんだ、という当時の日本人の深層心理が隠れている。

 

しかし東宝は、新しい勢力は基本として「善」であり、古い勢力は「悪」とはいわないものの消え行く運命にある、原則として合理的なアメリカが結局正しい、古くて不合理な「大日本帝国」は間違っていたのだ、日本も新しくアメリカになるべきだ、という思想が流れているのである。

 

アメリカのスポーツ、アメリカの男女関係、アメリカの親子関係、アメリカの音楽生活、アメリカのビジネススタイル、若大将は野蛮で未開な大日本帝国にやってきたアメリカ文明の先遣隊なのだ。

 

対して、東映仁侠映画に出てくる、ヨソからやってきて地元の古き良き利害関係をムチャクチャにする、新興ヤクザこそがアメリカ帝国主義なのだ。鶴田浩二高倉健アメリカ太平洋艦隊に突っ込む日の丸特攻隊なのである。

 

東宝は常に親米かつ資本主義万歳であり、東映や松竹の背後には反米思想とアンチ資本主義が流れる。
東映や松竹でなく、東宝が日本最大の映画会社である理由はここにある。

 

《親米保守映画列伝》東宝「若大将」シリーズの10年戦争(その3)~加山雄三VS樺美智子~雪山賛歌/雪山惨禍 - 在日琉球人の王政復古日記

に続く。