Mr. Thank-You / 有りがとうさん (1936) (EN/ES)
なにしろ古い映画である。私はマニアじゃないんで専門外だが、こういう映画もあった。
まず最初に言っておく。
娯楽映画としては、今の日本人には、非常につらい(笑)。
内容が、ではなく、テンポとスピードが、である。
とにかくのんびりしている。当時の日本人と今の日本人では時間感覚がここまで異なるのだ。
ただし、昭和11年当時の伊豆半島の社会・風俗を見るには大変貴重な映像である。
青年将校が暴れた時代、飢饉の東北地方だけでない、ここ伊豆半島でも、娘を遊郭・女郎屋へ売り渡すために母娘が乗り合いバスで駅に向かう。
この「有りがたうさん」という娯楽映画には当時の不況が色濃く影を落としている。映画のストーリー自体、主人公のバス運転手(上原謙)が、自分のバスで繰り広げられる悲しい女性の話にどう対応するのか?という話である。
主役である、戦前からの二枚目俳優・上原謙の息子が、歌う映画スタア、今は散歩してる(笑)若大将・加山雄三である。
娘を女郎屋へ売る貧しい一家もあれば、
幼い頃から音楽とスポーツに打ち込めたセレブな人気俳優一家もある。
今、BSジャパンで若大将シリーズを順次放送しているが、これは「政治映画」としても貴重である。
第3弾「日本一の若大将」には、(おそらく)2カ所、韓国も登場する。
《親米保守映画列伝》東宝「日本一の若大将」(1962年)~「ソウル?」「韓国の」「はあ韓国ですか」(笑)~半世紀前の嫌韓。 - 在日琉球人の王政復古日記
そして戦前当時の貧困を描いている「有りがたうさん」も無意識ながら、立派に「政治映画」なのだ。
この戦前の伊豆半島の乗り合いバスを舞台にした娯楽映画にも「朝鮮」が登場する。
55分50秒からご覧いただきたい。
半島から伊豆の山道の道路工事に出稼ぎにいた朝鮮人労働者たち。次の現場は長野の雪の中である。
事故か病気か、工事中に父親を亡くした白衣のチョゴリ娘は、異国に埋められた父の墓守りを優しい主人公に託す。
「わたし、一度でいいから、自分たちが作ったこの道を、日本の着物を着て通ってみたかった」
「日本の着物を着て」というところが泣かせるセリフである。
あ、誤解の無いように重ねて書くが、当時は日教組も朝鮮総連も韓国民団もない時代である(笑)。日本の映画を【サヨク】に洗脳する勢力なんか存在しない。
それでも当時の、映画に携わるようなインテリや、映画を見る知識層の中には「いくら不況とはいえ、貧乏な朝鮮人をやたらにこき使うのは、あんまり誉められたもんじゃないわなあ」という後ろめたさがあったことは、こういう娯楽映画を通しても見て取れるのである。
《在日コリアン映画列伝》日活「キューポラのある街」(1962)吉永小百合VS「Triumph des Willens」(1934)VS「風と共に去りぬ」(1939) - 在日琉球人の王政復古日記