どいつも、こいつも、擁護も、批判も、麻生さんのいわゆる「ナチス&改憲」発言についての意見は、99%の人々が【順序が逆さま】である。
「発言内容を客観的に検討」→「発言の是非を評価」ではなく、
「最初から好き嫌いで結論が決まっている」→「結論に合致するように発言内容を解釈する」になっている。
それが証拠に
「今まで麻生ファンだったが、今回の発言に失望した」という人もいなければ、
「今まで麻生が嫌いだったが、今回のバッシングはかわいそう」という人もほとんどゼロではないか(笑)。
擁護したい人が擁護できるようにムリクリ解釈するか、
攻撃したい人が攻撃できるようにムリクリ解釈するか、
どっちにしても、それは理性的態度ではなく、宗教的態度である。
もちろん私にも好き嫌いはあるけれど、それは自覚しつつ、可能な限り、理性的に、価値中立的に、客観的に、考察してみたい。
賛成・反対の前にまずは一読である。
【保存資料】「麻生副総理の憲法改正めぐる発言の詳細」~(いわゆる)麻生さん「ナチス・ドイツの手口に学べ」発言~<麻生財務相>子ども産まない方が問題…社会保障費巡り発言 - 在日琉球人の王政復古日記
さて「麻生発言」はいろいろな要素が絡み合ってる。それをゴッチャにすると解りにくくなるので、まずは分野別に分けて考える。
1回目は「そもそも麻生さんのワイマール共和国・ワイマール憲法・ナチスの政権獲得に対するイメージは、史実として妥当か?否か?」である。学校の科目で言えば「世界史」の分野だ。
ここでは、日本国憲法の是非も、靖国神社の是非も、日本のマスコミの是非も、麻生発言の国際的影響も、何の関係もない。
ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。
「ナチスは合法的に選挙で政権を獲得した」・・・これは、よく言われる話だが、半分は当たっているが、半分は間違っている。
確かにナチスは「軍事力」で政権は奪取していない。組織された正規軍の、大砲や戦車を使って、政権は奪取していない。
しかし、今の自民党のように、素手で、言論だけで、で政権を取ったわけではない。
「突撃隊」という、失業者と退役軍人とヤクザを集めて制服を着せた連中が、拳骨や棍棒や投石やナイフや自動小銃で、他党の人間を路上で脅し、実際に何人も殺しながら、しかしドイツの警察や治安当局がなんら取り締まることも出来ないまま、やりたい放題の殺人や暴力を駆使して、選挙で勝ってきたのである。
当時のワイマール共和国を今の日本やヨーロッパ先進国と同じようにイメージすれば間違う。今でいうならエジプトやシリアやイラクみたいな社会状況である。
当時のドイツの政党は、日本の自民党や民主党よりも、エジプトのムスリム同胞団やパレスチナのハマスやイラクのシーア派スンニ派テロ組織に近い。
ナチスの突撃隊だけでなく、当時のメジャー政党・社会民主党も「国旗団」、共産党も「赤色戦線」という暴力団(というか私設軍隊)を組織していたし、「政党が暴力団を組織した」というより「暴力団が政党を組織した」みたいな鉄兜団という団体もあった。
ちなみに、これがドイツ社会民主党「国旗団」の諸君である。
ドイツ国防軍でもなければ、ナチス・ドイツの突撃隊でもない。正反対である。
まるでファシストだが(笑)、これが福島瑞穂たんの社民党と同じ左派政党の「私設軍隊」なのだ。
ワイマール共和国とは、各政党がこういう軍服を着た連中をカネを出して抱えていた、そういう政治状況・治安状態だったのである
彼らが路上で殴り合い、殺し合いをしても、ワイマール政府の正規の警察力はほとんど取り締まることができなかった。それどころか特定政党に協力してたりしている。
ナチスが政権を獲得した後は、突撃隊や親衛隊の人材が正規の警察に流入する。昨日まで失業ヤクザだった連中が警察官になるのである。「ヤクザの警察化」というべきか、「警察のヤクザ化」というべきか。
その後、社民党の集会が焼き討ちされ、共産党員が路上で虐殺され、でも警察は傍観したまま誰も逮捕されず、武装した突撃隊が街頭を練り歩き、そんな状況で投票された結果、ナチスは第1党になったが、それでも過半数は取ったことがない。
これが現在の日本人が想定する普通選挙の結果と呼べるのか?、民主主義がナチスを選んだと言えるのか?、なかなかに難しいだろう。
ワイマールから日本を見れば、例えば「在特会」や「反原発デモ」はまだまだ全然安全だ。だって彼らは武装していないし、警察も彼らを完全に取り締まっているからだ。
もし、在特会や反原発デモが国旗やプラカードの棒を鉄パイプにしていつでも乱闘できる準備をしだしたり、傷害事件が発生しても警察が容疑者を確保できないような事態になったら、日本もワイマールに近づくのである。
そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。
これも「当時としては」という限定付きだ。魚類しかいない太古の時代ならカエルみたいな両生類も進化した動物だろうが、哺乳類のサルから見ればカエルが進化した動物とは言い難い。
ワイマール憲法が「進歩的」と呼ばれた理由は、当時の他国の憲法が国民の自由権(束縛されないこと)保護をメインにしていたのに対し、社会権(生きていくこと)の保護を唄ったことによる。そこは進化なのだが、自由権に関してはまだまだ全然駄目だったといってよい。
とにかくワイマール憲法は大統領の権限が強大過ぎた。大日本帝国憲法の天皇並みである。法律同様に通用する大統領令もほぼ無制限に出せるし、非常事態と判断すれば憲法も停止できる。国民の自由をいくらでも制限できるのである。
実際、ナチスの政権獲得には、ナチスではないヒンデンブルグ大統領の大統領令乱発が大きく寄与している。ナチスは選挙の結果で政権を取ったのではなく、ヒンデンブルグ大統領の任命で政権を取ったのだ。
日本国憲法には内憂外患による緊急事態への対処が規定されていない。
そこを批判して、自民党や産経新聞の自主憲法草案は緊急事態の条項を作っているが、ワイマール憲法は「緊急事態の乱用」によって自滅したとも言える。
緊急事態への対処は必要にしても、これは国民にとっても国家にとっても非常にヤバイ部分であり、真剣に考える必要があるだろう。
憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。
わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。
ナチスは自分たちの憲法なんか作っていない。ワイマール憲法の改正もやってない。
「全権委任法」という法律で、ワイマール憲法を形式上は残したまま、内容を無効化したのである。日本でもおなじみの「解釈改憲」の極大バージョンである。
そして、誰も気づかないまま、静かに憲法が無効化したわけではない。
ナチスが突撃隊や親衛隊のヤクザに半ば乗っ取らせた警察権力を駆使して、共産党を弾圧し、社民党を脅迫し、まるでヤクザの事務所に堅気の皆さんを連れ込んで友好的な話し合い(笑)の末にみかじめ料を受け取るように、全権委任法を成立させたのだ。
ワイマール憲法は、麻生さんの言うように「だれも気づかないで変わった」のではなく、「喧噪(けんそう)のなかで」死文化した。
・・・というわけで、麻生さんのワイマール共和国への認識はあんまり正しくないように考える。
ただし、それと、麻生さんの発言内容の是非は話が別だし、麻生さんの政治家としての評価も話は別だ。麻生さんは、ドイツ近代史の専門家ではなく、日本の政治家だからだ。たとえドイツ史の知識が怪しくても、本業である日本政治への取り組みや意見が妥当ならば、それで良い。
お次は、そこを考える。
試験に出る!?麻生さん「ナチス/ワイマール」発言問題集(国語編)。 - 在日琉球人の王政復古日記
試験に出る!?麻生さん「ナチス/ワイマール」発言問題集(倫理政経編)。 - 在日琉球人の王政復古日記