在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

NHKプロジェクトX~天皇陛下生前退位~トランプ投票ラストベルト~相模原障害者大量殺人~電通鬱病過労死自殺。


地上の星 / 中島みゆき [公式]

 

もし、今でも、NHKで「プロジェクトX」を放送していたら、ほぼ確実に取り上げられていた話だろう。

 

博多駅前開通 作業指揮の市交通局理事「業者は命を張った」 - 産経ニュース

2016.11.16
 博多陥没事故の現場で、復旧作業を指揮した福岡市交通局の中村貴久理事は15日、産経新聞の取材に応じ、「事故を起こしたことは無念だ」と語った。
 中村氏は事故直後の様子について「つい昨日のような感覚で、発生後の現場でのやりとりについては、頭が整理できていない」と語った。
 現場については「今回の工区は当初から難しいと指摘されていた。(事故防止に)やるべきことはやっていたと思うが、事故を起こしたことは本当に無念だ。ただ、事故を起こした責任はあるが、業者は命を張って作業にあたった。復旧工事でも同じ」とした。

 15日の市議会第4委員協議会で、事故に関する質疑があった。この中で、議員が「市民から『わずか8日間の復興に驚いた。関係者に感謝の言葉を伝えてほしい』と言付かった」などと述べると、中村氏が号泣する一幕もあった。

 

しかし、同じ新聞が、その1日前の社説では、こう主張している。

 

【主張】電通の過労自殺 「命より大切な仕事ない」(1/2ページ) - 産経ニュース

2016.10.15

 女性は昨年のクリスマスに都内の社宅から飛び降りた。長時間労働鬱病を発症していたとみられ、労働基準監督署が労災として認めた。記者会見した母は「労災認定されても娘は戻ってこない。命より大切な仕事はない」と過労死の根絶を訴えた。悲痛な母の叫びを、会社も政府も社会も、心して聴くべきである。
 厚生労働省がまとめた「過労死等防止対策白書」によると、昨年度に過労自殺(未遂も含む)で労災認定されたのは93件だったが、勤務問題を原因の一つとする自殺は2159件にのぼった。労災認定は氷山の一角ともいえる。
 同省の企業アンケートでは、残業時間が月80時間を超えた社員がいる会社は2割を超えた。今回の問題は電通だけでなく、長時間労働が広がっている産業界全体への警鐘と受け止めるべきである。

 

同じ産経新聞だが、

「福岡陥没事故復旧」に対しては、長時間労働賛美

電通鬱病過労死自殺」に対しては、長時間労働批判。

2つの記事で労働への価値観が逆転・矛盾している。

別に、産経を責めているのではない。

この「矛盾」は、産経だけの話ではなく、日本国民ほぼ全員が抱えている。

 

というより、大半の人々は、「福岡陥没」と「電通自殺」、この2つを、根本的には同じ問題なのだ、とは思っていないだろう。

逆に「この2つは全然違う話だ」「結びつけるオマエがおかしい」と反論がありそうだ。

 

「福岡陥没」では、過労死も自殺も発生していない(だろう、おそらく)。現場で働いた土建屋さんに、この作業が原因で鬱病になった人もいない(だろう、おそらく)。

じゃあ、電通自殺」では、なぜ、東大出身の新入女子社員が、過労のあまり、鬱病を発症し、とうとう自殺したのか?

「福岡陥没」の土建屋さんと、 電通自殺」の女子社員の、違いは何なのか?

 

もちろん、一番大きいのは、期間の長さだ。

「福岡陥没」は「1週間」の突貫工事。ハードだったろうが、期間は短い。

しかし、皆さんの大半が、うっかり思い違いしてるか、もうすでに忘れてると思うが、電通自殺」だって、彼女が仕事を始めてから自殺するまでの期間は「3か月」なのである。

 

電通鬱病過労死自殺~人間は、たった2か月で鬱病になる。たった3か月で自殺する。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

「3か月」が長いか短いかは、なかなか難しい話だが、

おそらくだが、たとえ、仮に「福岡陥没」の工事が3か月かかっていたとしても、現場で疲労による事故があったかもしれないが、鬱病、過労死、自殺は、まず、なかっただろうと推測される。

期間の短さは、重要だが、決定的ではない。

 

もう一つの要因は、仕事の種類だ。

イメージとはサカサマだが、実は、電通みたいなホワイトカラーのサービス業より、ブルーカラー土建屋さんの方が、労務管理、労働者保護がシッカリしているのである。

平成日本のマトモな工事現場は、他のサービス業よりも、無理や無茶をしないし、労働時間も休養をシッカリ確保されている。

それは、過去の工事現場が、完全にヤクザの商売であり、人権もクソもなかった歴史の結果である。

土建屋さんの仕事の歴史は古い。ピラミッドだって万里の長城だって土建屋さんの仕事だ。よって労務管理のノウハウの蓄積されてきたわけだ。

タコ部屋に軟禁、昼夜無しの重労働、事故で死ぬのが当たり前、みたいな無茶苦茶な労働環境で、労働者の待遇がヒド過ぎたことへの反発・反動・反省・改善の結果だ。

 

 六代目山口組分裂~始皇帝もツタンカーメンも土建屋のオヤジ~国家は「公認されたヤクザ」、ヤクザは「未公認の国家」。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

六代目山口組分裂~ヤクザと同じ「母体」から生まれた秘密結社その1~自由な石工「フリーメーソン」。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

土建屋さんは、肉体を酷使するから、疲労で動けなくなったら、本当に物理的に動けない。それを無理やりどうにかするには限界があった。 

しかし、ホワイトカラーは「徹夜って言っても、机に座ってるだけでしょ?楽じゃん」みたいなとらえ方をされるので、過労が見えにくいわけだ。

「福岡陥没」も、土建屋さん全員のトータルの労働時間はものすごいかもしれないが、個々の労働者はちゃんと人員交代をうまく取ってサイクルさせていただろう。そこが土建屋さんの蓄積してきた労務管理ノウハウである。

 

そして、もう一つは、仕事のモチベーションだ。

福岡の土建屋さんは、大変な陥没を目の前にして「できるだけ早く、って、こんなの、どうすりゃいいの?」と、ネガティブな気持ちも沸いたかもしれないが、

正反対に「よーし!なんでんなか! 博多っ子のド根性、土建屋のプライド、見せてやるバイ!」と、テンションが上がった面もあったと思う。

工事が完了した夜は「オレたちはやり遂げた!」という達成感・高揚感で、疲労も吹っ飛んだかもしれない。

人間は、能力とモチベーションがあれば、地球を1周できるのだ。

 

電通鬱病過労死自殺~マラソン猫ひろしは月間500キロ地球1周走った~東京五輪銅メダル円谷幸吉は頸動脈を切った。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

仕事というモノは、カネ儲けだけではなく、人間のプライドを保つ、生きている証を支える、人間の尊厳、実存の重要な要素である。

 

それは、トランプを大統領に押し上げた、アメリ五大湖周辺=錆びついた工業地帯=ラストベルトの住人の投票行動も同じである。

 

トランプ氏を大統領にした場所、ラストベルト - WSJ

 トランプ氏は「オバマ氏の再来になる」とシャップさんは話す。「変化を起こす」ことが両氏の使命だからだ。トランプ氏の選挙戦中の無礼な物言い、特に女性を巡る発言については自慢話や「内輪話」だと気に留めない。性的暴力を受けたという女性の話も信用していない。

 ラストベルトにある多くの郡が同様にトランプ氏支持に大きく傾いた。製造業の衰退、人口減少、社会的な団結のほころび、移民増加といった共通要因があり、米国の再生というトランプ氏のメッセージに心酔する素地があった。
 驚きをもって迎えられたトランプ氏勝利は、ペンシルベニア州北東部のこの地で少なくとも20年前から進行していたシフトを象徴する。1990年代後半に掲げられた技術の進歩と世界貿易が恩恵をもたらすという政策が、国内の多くの地域と同様、実を結ばなかった。さらに経済情勢の悪化が地域社会の衰退を一段と印象づける結果となった。

 トランプ氏はこうした社会の変化を利用し、労働者階級の有権者を最大限に取り込んだ。彼らは銃規制や堕胎に関して保守派の意見に以前から共感していたが、富裕層と近い関係にある共和党には懐疑的だった。トランプ候補がポピュリズム大衆迎合主義)を広めたことでこの溝が埋まる形となった。

 

「カネがない!生活できない!だから社会福祉だって欲しい! でも本当に欲しいのは、プライドを保てる仕事だ!自分で稼ぎたいんだ!」というのが、白人労働者(失業者)の心の叫びなのだ。

  

福岡陥没事故復旧への賞賛、アメリカ・ラストベルトの憤懣。

それは、かつてNHKでやっていた、仕事の尊厳、労働賛歌を歌い上げる、しかし実情は、無茶苦茶な過重労働を賛美することになりかねない、危険な番組「プロジェクトX」と同じ思想だ。

 私は、それを、「サントリーオールド主義」と呼んでいる。

 


サントリーオールドs59

 

サントリーオールド~天皇陛下生前退位~雅子皇太子妃殿下~相模原障害者殺傷事件~労働価値説。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

労働賛歌・労働絶対主義は、日本国民、どころか、畏れ多くも天皇陛下にあらせられても、呪縛する。

 

特設 天皇陛下 お気持ち表明|NHK NEWS WEB

関係者によりますと、5年ほど前、天皇陛下が「生前退位」の意向を示されると、皇后さまも宮内庁の幹部も非常に驚いたということです。そして、どうにか気持ちを切り替えてもらえないかと、皇室の別の話題を持ち出すなど、慎重な姿勢で天皇陛下の真意を見極めようとしました。あるときは、天皇陛下に対し、「これまで象徴としてなされてきたことを国民は皆分かっています。公務に代役を立てるなどして形だけの天皇となられても異を唱える者はいません」などと進言し、翻意を促したということです。
しかし、天皇陛下は「そうじゃない」「違うんだ」などと強く否定し、「象徴としての務めを十分に果たせる者が天皇の位にあるべきだ」という考えを示し続けられました。天皇陛下の考えはその後も変わらず、皇后さまも次第に「お気持ちに沿うようにして差し上げたい」と述べられるようになったということです。天皇陛下のお気持ちは、皇太子ご夫妻や秋篠宮ご夫妻も受け入れられているということです。

 

「労働は人間の尊厳である」それ自体は、文句の付けようがない価値観だ。

しかし、それは、徐々に、しかし確実に「労働は人間の義務である」に化ける。

すでに「大御心」は、尊厳というより、義務の意識である。

 

そして「労働は人間の義務である」は、徐々に、しかし確実に「義務を果たさないヤツは人間に値するのか?」という疑問・軽蔑・憎悪に化ける。

その疑問・軽蔑・憎悪の行き着く果てが、この事件だった。

 

「自分は救世主」「日本のため」容疑者供述 相模原殺傷:朝日新聞デジタル

 相模原市緑区の障害者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が死亡した事件で、うち9人の殺人容疑で再逮捕された元職員の植松聖(さとし)容疑者(26)が「殺害した自分は救世主だ」と供述していることが捜査関係者への取材でわかった。「(犯行は)日本のため」などとも説明しており、神奈川県警は植松容疑者が身勝手な考えを膨らませて事件を起こしたとみている。
 捜査関係者によると、植松容疑者は「障害者の安楽死を国が認めてくれないので、自分がやるしかないと思った」と供述。こうした考えに至った背景について、中学時代の同級生や園で働いた経験などを挙げ、「障害があって家族や周囲も不幸だと思った。事件を起こしたのは不幸を減らすため。同じように考える人もいるはずだが、自分のようには実行できない」と話しているという。

 

「働けない障害者は殺せ」・・・ナチス北朝鮮もこの立場である。

 

「労働は人間の尊厳である」が「労働は人間の義務である」に化ける。

そして「労働は人間の義務である」は、徐々に、しかし確実に「労働は人間の桎梏・抑圧である」に化ける。

義務が労働者を追い詰めていく。

 

再配達や年中無休、本当に必要ですか? 過剰品質が働く人を追いつめる〈AERA〉 (dot.) - Yahoo!ニュース

●そこまでするべきか
『仁義なき宅配 ヤマトvs佐川vs日本郵便vsアマゾン』の著者で物流に詳しいジャーナリストの横田増生さんは言う。
「時間指定や再配達は企業側から言い出したサービスですが、利用者はその裏でドライバーたちがどれだけ大変な思いをしているのか、想像できていない。『送料無料』が当然と思う人も増え、発送する企業による宅配料金のディスカウントでドライバーの給与も下がっています」

 オーストリアに住む団体職員の女性(51)は3年前に渡欧した当時、ほとんどの店が日曜に営業しないことや、不在の場合は宅配物を自分で取りに行かなければならないことに戸惑った。でも、慣れるとそう困ることではなかったし、日曜日に公園でくつろぐ家族連れを見ると、
「あの人もスーパーの従業員かもしれないな」
 と、自分も幸せな気持ちになるようになったという。
サービスを提供してくれる人にも生活がある。それを尊重しようと思えば、期待するサービスが受けられなくても不快だと思わなくなりました

 

スーパーマンであるイチローや日ハム大谷ですら不可能な無茶を、ペーペーの女子社員に要求する異常な事態が日常化する。 

  

電通自殺」も、「労働は人間の桎梏・抑圧である」の陰惨な一例である。

 

今回の「福岡陥没」の土建屋さんは、尊厳ある労働だっただろう。

ラストベルトの白人も、おそらく「福岡陥没」みたいな尊厳ある仕事がしたい。

しかし、あんな突貫工事が何回も続けば、徐々に福岡の土建屋さんも、生前退位に追い込まれた天皇陛下の大御心の接近し、仕事が尊厳から義務に変わっていく。

そして最後は、疲弊していく宅配便のドライバーや、自殺に追い込まれた電通社員と、ほとんど変わらない桎梏と抑圧になる。

 

福岡博多陥没復旧、トランプ大統領ラストベルト、天皇陛下生前退位、相模原障害者殺人、電通鬱病過労死自殺。

 

すべては、尊厳でもあり同時に抑圧でもある、「労働」と「人間」の、いかんともしがたい難問なのだ。

 

中島みゆきの歌は、相変わらず、素晴らしい。

しかし、睡眠時間を削られた電通の新入社員の耳に、中島みゆき、どのように聞こえただろうか?

 

漢字という名の地獄~この空を飛べたら(中島みゆき/加藤登紀子)~昔者蒼頡作書、而天雨粟、鬼夜哭(淮南子)。 - 在日琉球人の王政復古日記