じゃじゃ馬億万長者OP
これがヒルビリーだ。
約50年前、1960年代のアメリカテレビドラマである。
「じゃじゃ馬億万長者」の原題は「The Beverly Hillbillies」。
まったく相容れない正反対の存在同士をひっかけたジョークである。
【歯】トランプ支持ヒルビリー #石原裕次郎 #BABYMETAL #SU-METAL #ももクロ #百田夏菜子 #乃木坂46 - 在日琉球人の王政復古日記
の続き。
下記の記事は、アメリカ大統領選挙だけでなく、アメリカの歴史、そして、海の向こうのイギリスを考える上でも、興味深い内容である。
ヒルビリーの源流には、イギリス=グレートブリテンの宗教と民族の血みどろの抗争が横たわっている。
トランプに熱狂する白人労働階級「ヒルビリー」の真実 | 渡辺由佳里 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
<知識層からときに「白いゴミ」とまで蔑まれる白人の労働者階級。貧困と無教養を世代を越えて引き継ぐ彼らに、今回の選挙で「声とプライド」を与えたのがトランプだった>
タイトルになっている「ヒルビリー」とは田舎者の蔑称だが、ここでは特に、アイルランドのアルスター地方から、おもにアパラチア山脈周辺のケンタッキー州やウエストバージニア州に住み着いた「スコットアイリッシュ(アメリカ独自の表現)」のことである。
ヴァンスは彼らのことをこう説明する。
「貧困は家族の伝統だ。祖先は南部の奴隷経済時代には(オーナーではなく)日雇い労働者で、次世代は小作人、その後は炭鉱夫、機械工、工場労働者になった。アメリカ人は彼らのことを、ヒルビリー(田舎者)、レッドネック(無学の白人労働者)、ホワイトトラッシュ(白いゴミ)と呼ぶ。でも、私にとって、彼らは隣人であり、友だちであり、家族である」
つまり、「アメリカの繁栄から取り残された白人」だ。
まず最初に、この記事は非常に優れていると思うが、ここで語られるヒルビリーの該当者は範囲がかなり広い。厳密な意味でのヒルビリーに該当しない地域の人々も広く含まれているようだ。
まあ、私はアメリカに詳しくないから、現地じゃ、かなり広い範囲の人々を、ヒルビリーと呼ぶようになってるのかもしれない。
しかし、アイダホ州のトウモロコシ畑の農民は、たとえ白人で、貧乏で、共和党支持でも、厳密にはヒルビリーではない。
自動車工場が倒産して職を失ったオハイオ州の白人労働者も、たとえトランプ支持でも、厳密にはヒルビリーではない。
ヒスパニックの不法入国に怒ってる、テンガロンハットにウエスタンブーツのテキサス州の白人も、厳密にはヒルビリーではない。
映画「風と共に去りぬ」に出てくる、黒人奴隷を使役していたジョージア州の綿花畑経営者もその子孫も、厳密にはヒルビリーではない。
厳密な意味のヒルビリーは、記事にある通り、「ヒル=丘=山地」の住民であり、中西部から南部のだだっ広い大平原の住人ではないのだ。
南部の中でも、アパラチア山脈、オザーク高原といった、かなり限定された山岳地帯の住民を指すのが本来である。
「ヒル=丘=山」だとして、「ビリー」は? こっちは「スコットランド人」という意味である。
なんで、ビリーがスコットランド人かというと、話は17世紀末のイギリス名誉革命にさかのぼる。
名誉革命は、キリスト教カトリックとプロテスタントの戦いである。
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オレンジ色は、オランダ王家のイメージカラーであり、オランダのシンボルカラーだ。そもそもオラニエ・ナッサウ王家の「オラニエ」自体が英語なら「オレンジ」なのだ。
「オランダ」「オレンジ」と言えば、イギリス名誉革命である。
17世紀末の名誉革命によってイギリス国王に即位したのがオレンジ公ウィリアム=オラニエ公ウィレム。なんで彼が即位したかといえばプロテスタントだからである。
イギリス名誉革命とは、カトリックとプロテスタントとの戦いであり、カトリックのステュアート朝ジェームズ2世が敗北し、勝利したプロテスタント勢力のイギリス議会が同じプロテスタントのオレンジ公ウィリアムを新しいイギリス国王として連れて来たわけだ。
この戦いで、プロテスタントのオレンジ公ウィリアムを支持したのが、同じプロテスタントのスコットランド系アイルランド人=スコッチ・アイリッシュである。
なんでスコッチ・アイリッシュが「ビリー」かというと「ウィリアム派」だからだ。
ビリーはウィリアムの愛称なのである。
ビリーさんの正式の名前はウィリアムなのだ。
ビルさんもウィルさんもウィリーさんもウィリアムである。
向こうの名前はこういう愛称が多い。エリザベスちゃんも、ベティとかリズとか愛称で呼ばれる。本来は同じ名前だ。
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つまり、ヒルビリーは、エスニシティはスコットランド系アイルランド人、宗教的にはプロテスタントの長老派(カルヴァン派)となる。
このエスニシティと宗教が、彼らが山奥に住み着いた理由にもなる。
スコッチ・アイリッシュが新大陸アメリカに移民した時には、すでに遅かった。
先に移民したイングランド人たちが東海岸の美味しい農地を占有してしまっていたからだ。イングランド人もプロテスタントだが別宗派の英国国教会である。
もはや東海岸に農地はない。選択肢は2つ。イングランド人地主の下で小作人として働くか?、イングランド人のいないさらに奥地を開墾するか?
イギリスでもイングランド人にイジメられていたのに、新大陸でも同じ目にあってたまるか!、と独立自尊の後者を選んだのが、ヒルビリーということだ。
だからヒルビリーの住んでる山地は農業に適さない荒れ地であり、貧困に苦しむことになる。
そのさらに後になって、新大陸にやって来たのが、プロテスタントのスコッチ・アイリッシュと激しく対立していた、カトリックのアイルランド人である。
「プロテスタント・イングランド人VSスコッチ・アイリッシュ」ならば、イングランド人が勝ち組、スコッチ・アイリッシュが負け組だが、
「スコッチ・アイリッシュVSカトリック・アイリッシュ」ならば、スコッチ・アイリッシュが勝ち組、カトリック・アイリッシュはさらに負け組になる。
彼らスコッチ・アイリッシュは名前の通り、元はスコットランドの住人だったが、記事にあるように、アイルランドの北部「アルスター地方」に移民した末裔だ。
アルスターは北アイルランドの別名である。つまりIRAで有名な、カトリックとプロテスタントの殺し合い、北アイルランド紛争の場所なのだ。
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後の後にやってきたカトリック・アイリッシュには、逃げ込める山地すらない。
ただしタイミング的に、アメリカが発展してボストン、ニューヨーク、シカゴなど大都市圏が形成された時代だった。カトリック・アイリッシュは土地をあきらめ、都市住人になる。しかし大都市もプロテスタント・イングランド人の天下だったので、その下で働く工場労働者や警察官、消防士、兵隊になるしかなかった。
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しかし、選んだ住処によって、スコッチ・アイリッシュとカトリック・アイリッシュの運命は大きく変わっていくことになった。
カトリック・アイリッシュは、厳しい差別はあったものの、都市住民になったことで、アメリカの繁栄とともに、人口も増加し、地位が上昇していく。そしてJFKのようなアメリカ史上有数の人気を誇る大統領まで生み出す。
しかし、ど田舎の山岳地帯に住んだスコッチ・アイリッシュは、アメリカの繁栄から取り残されていく。
南部とはいっても、小麦も取れない、綿花畑も無理な、荒れ地。黒人奴隷を雇う金もない。
あるのは炭鉱や鉱山くらいで、倒産するもなにも自動車工場なんか初めからない。仕事なんかないから不法入国のヒスパニックも近寄らない。
黒人もヒスパニックもいない、差別する有色人種すらいない、白人だけの世界で、近代化から取り残され、移民当時の前近代、中世さながらのスコットランドの因習をそのまま残して、ヒルビリーは「白い土人」になってしまうのである。
独立自尊の気風で連邦政府や州政府の介入を嫌い、法律より一族のオキテ、契約より血統。冗談抜きでシェイクスピアの「ロミオとジュリエット」みたいな一族同士の陰惨な殺し合いで問題を解決するライフスタイルを維持したのだ。
狭い土地に命を懸ける「一所懸命」、頼れるのは血のつながりだけ「一族郎党」、怨みを忘れず復讐を果たし「敵討ち」、メンツを立てるためなら殺人も辞さない、そのメンタリティは、源平合戦から戦国時代までの日本の武士と非常によく似ている。
彼らヒルビリーの音楽文化から、カントリー&ウエスタンが生まれる。要は、アメリカの民謡・演歌だ。
そこに黒人音楽ブルースが融合して、ロカビリーなんかも生まれる。その大スターがエルビス・プレスリーである。
エルビス・プレスリーとJFケネディの戦いなのだ。
まだ続く(馬鹿)。
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