在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

法VS人間~ #英米法 #法の支配 #イギリス経験論 VS #大陸法 #法治主義 #大陸合理論 ~ アキレスと亀

https://information-station.xyz/wp-content/uploads/2016/04/fb0e00c00574492e9f7271a614912df6-1024x799.png

 

トランプのアメリカ(アングロサクソン)と、メルケルのEU(フランコ・ゲルマン)では、トランプの言論の自由に対して、ビッグテックの商売の自由に対して、さらに大きく言えば、世界の見え方・考え方が、2つに分かれる。

その背景には、2つの近代思想の対立がある。

 

法VS人間~言論の自由~トランプ・共和党VSビッグテック(twitter/Facebook)・民主党VSメルケル・EU - 在日琉球人の王政復古日記

の続き。 

  

※注意※
御覧の通り、私は無学文盲で、学問的訓練を受けていない。
さらに、下記は、判りやすいように、デフォルメして書く。
不正確やいい加減な部分はご容赦願いたい。 

 

例えば「アキレスと亀パラドックス」という古代ギリシャの寓話がある。

足の速いアキレスと足の遅い亀が競争する。
ハンディキャップとして、アキレスのスタート地点(A)よりゴールに近く亀のスタート地点(B)を置く。
アキレスが(B)に到着した時点で、亀は(B)より少し前(C)にいる。
アキレスが(C)に到着した時点で、亀は(C)より少し前(D)にいる。
アキレスが(D)に到着した時点で、亀は(D)より少し前(E)にいる。
ずっとこの繰り返しで、『いくら時間が経過しても』足の速いアキレスは足の遅い亀に追い付けない。

 

メルケルのようなEU人は「確かに、理屈で考えれば、アキレスはカメに追い付かない。どこかにトリックがある」と答える。これが「大陸合理論」である。

 

トランプのような英米人は「常識で考えれば、アキレスはカメに追い付く。そもそも理屈が間違っている」と答える。これが「イギリス経験論」である。 

 

上記の仮定は『いくら時間が経過しても』の部分が間違っている。

繰り返すたびに、経過時間がどんどん短く刻まれて、アキレスが亀に並ぶ瞬間まで距離も時間も無限に小さくなっていく。距離だけでなく時間も止まっているのだ。時間が止まってるんだから、距離が縮まることもない。

 

大陸合理論を法律の世界に持ち込むと「大陸法(civil law/シビル・ロー)」となる。

イギリス経験論を法律の世界に持ち込むと「英米法(common law/コモン・ロー)」となる。

 

大陸法は、フランス・ドイツなどEU大陸諸国の法体系である。
歴史的には中世封建時代とは革命によって断絶していて、古代からのローマ法の系譜になる。
国家権力が、自らを、立法府で作られた実定法・成文法で、拘束する「法治主義(rule by law)」思想である。

 

英米法は、イギリス・アメリカなど旧イギリス植民地諸国の法体系である。
歴史的には中世封建時代の慣習法を継続している。13世紀(日本なら鎌倉時代)のマグナ・カルタが21世紀でも生きている。
国家権力を、外部(自然法・不文法・慣習法)で、拘束する「法の支配(rule of law)」思想である。

 

大陸法は、思想的にはデカルトスピノザライプニッツなど「大陸合理論」が背景にある。

「なぜなのか?」を問う抽象的思考。簡単に言えば「理屈で考えろ」という立場だ。人間の常識=歴史は不完全だ。信じられない。
前提と規則から結論を導く「演繹法(deduction)」的考え方。学問で言えば公理から出発する「数学」的であり、さらに形而上学(哲学、宗教)的でもある。


英米法は、思想的にはベーコン、ロック、ヒュームなど「イギリス経験論」が背景にある。

「いかにすべきか?」を問う具体的思考。簡単に言えば「常識で考えろ」という立場である。人間の理性はどこかアヤシイ。狂ってる。
前提から結論への規則を発見する「帰納法(induction)」的考え方。学問で言えば自然から出発する「科学」的であり、さらに工学(エンジニアリング)的・実用主義(プラグマティズム)的でもある。

 

大陸法は、立法府が作る実定法(立法府で作った法)・成文法(文字で書かれた法)が中心。新しい事態が発生した場合、新たに立法府で作った実定法・成文法で対応する。
三者を含む共同体全体の倫理が正義である。理論的には被害者のいない犯罪(売春など)も犯罪と考える。

 

英米法は、慣習から来る不文法(文字で書かれていない法)と、司法府の判決の蓄積である判例法が中心。新しい事態が発生した場合、蓄積された判例法で対応する。
三者を含まない当事者同士の利益が正義である。理論的には被害者のいない犯罪(売春など)は犯罪としない傾向がある。

 

大陸法は、自由より平等を優先する。具体的には、フランスの政教分離(ライシテ)、ドイツの戦う民主主義(民主主義を認めない自由は認めない)という基本原則がある。
言論の自由より差別禁止を優先する。民族・人種・宗教の区別を全部やめる。ナチスソ連共産主義や宗教原理主義に存在の権利はない。
国家(政府)が人権問題を判断する義務がある。私人(企業)に人権問題を判断する正統性はない。

 

英米法は、平等より自由を優先する。信教の自由。言論の自由。商売の自由。
差別禁止より言論の自由を優先する。民族・人種・宗教の区別を全部認める。ヘイトスピーチ言論の自由である。
私人(企業)にも商売の自由、自主規制の自由がある。国家(政府)の介入は消極的でなければならない。

 

ドイツ(大陸法)なら、行政は、ビッグテック企業がトランプの言論の自由を制限するのを認めない。トランプの言論の自由によるヘイトスピーチを制限する義務は行政にある。

ドイツには、ナチスなど差別思想の言論の自由を制限する「戦う民主主義」という基本原則がある。

   

ドイツ右派ポピュリズム政党AfDを監視対象に 連邦憲法擁護庁 | 毎日新聞

2021/3/4
 ドイツの情報機関である連邦憲法擁護庁がドイツの排外的な右派ポピュリズム政党「ドイツのための選択肢(AfD)」を極右の疑いがあるとして監視対象に指定したことが3日、分かった。独メディアが相次いで報じた。AfDは大連立政権に対する野党第1党であり、9月の連邦議会選挙(総選挙)にも影響するとみられる。
(略)

  

ドイツ連邦共和国基本法
第5条 [表現の自由]
3項 芸術および学問ならびに研究および教授は、自由である。教授の自由は、憲法に対する忠誠を免除しない。
第18条 [基本権の喪失]
意見表明の自由、とくに出版の自由(第5条1項)、教授の自由(第5条3項)、集会の自由(第8条)、結社の自由(第9条)、信書、郵便および電気通信の秘密(第10条)、所有権(第14条)または庇護権(第16a条)を、自由で民主的な基本秩序を攻撃するために濫用する者は、これらの基本権を喪失する。喪失とその程度は、連邦憲法裁判所によって宣告される。

 

トランプの言論の自由とビッグテック企業の商売の自由の対立に対して、

ドイツなら、こういうトラブルが起こることを想定して事前に対応する法律が作っておくので、行政が判断する。もしも法律が無ければ、立法が法律を作る。

  

アメリカ(英米法)なら、行政は、ビッグテック企業がトランプの言論の自由を制限するのを、ビッグテック企業の商売の自由として認める。

トランプが言論の自由を行使したいのなら、別のSNSを使えばいい。ゆえに企業間の自由競争が重要。

アメリカ合衆国憲法修正第1条によって、トランプの言論の自由によるヘイトスピーチを制限する権限は立法にも行政にもない。

  

アメリカ合衆国憲法修正第1条
議会は、国教の樹立を支援する法律を立てることも、宗教の自由行使を禁じることもできない。 表現の自由、あるいは報道の自由を制限することや、人々の平和的集会の権利、政府に苦情救済のために請願する権利を制限することもできない。 

 

トランプの言論の自由とビッグテック企業の商売の自由の対立に対して、

アメリカなら、前もって該当する法律を作らない(理屈で考えない)ので、トラブルが起こってから、(常識で考える)司法が判断する。

 

例えば、ワシントンDCに犬が人を噛んだ時の法律が、まだ無かったとする。

  

バイデン大統領の愛犬、また職員をかむ - 産経ニュース

2021.3.31
 米CNNテレビは30日、バイデン大統領の愛犬「メジャー」がホワイトハウスの庭を散歩中、再び職員にかみつく事件を起こしたと報じた。メジャーは今月上旬にも警護担当者にかみつき、一時は東部デラウェア州にあるバイデン氏の自宅に戻されていた。
(略) 

 

英米法なら、その場合、司法は昔の判例を探す。

西部開拓時代に「飼い馬が人を蹴ったら、飼い主が賠償する」という判例があれば、それを根拠に「飼い犬が人を噛んだら、バイデンが賠償する」という判決を出す。

飼い猫が人を引っ掻いた場合も同様に対応する。

 

しかし、飼い主がいない野良猫が人を引っ掻いた場合はどうするのか?

また昔の判例を探して、「野獣の駆除は、街の責任である」という判決を見つける。

 

英米法は、裁判所の判決が新しい法律を作るのと同様の意味になる。

だから、アメリカ連邦最高裁判事の人事が、連邦議会選挙や大統領選挙と同じくらいの重みを持つ。

 

日本・不同意堕胎致傷罪・懲役2年VSアラバマ州・中絶手術・懲役99年VS #ルース・ベイダー・ギンズバーグ - 在日琉球人の王政復古日記

 

英米法は「老舗旅館の増築」である。

古い本館を取り壊さず、新館、別館を増築して、迷路のような渡り廊下でつなぐ。本館の2階が別館の1階とつながったりする。

大陸合理論は、そういう不合理を嫌う。本館を取り壊して、新しく立て直す。スッキリずるが、歴史は失われる。

 

大陸法なら、最初から「飼い馬が人を蹴ったら、飼い主が賠償する」なんていう具体的な条文ではなく、「所有する動物・植物が他人に害を与えたら、所有者が賠償する」と、犬でも猫でも馬でも、庭木が倒れて人にケガさせても、適応可能な抽象的な条文にしておく。

 

法VS人間~デジタル・レーニン主義VS戦う民主主義VSビッグテックVSワイルド・ウエスト - 在日琉球人の王政復古日記

に続く。