在日琉球人の王政復古日記

NATION OF LEQUIO

《アンチ・サッチャー映画列伝》「この道しかない(There Is No Alternative.)」VS「クソババアが死んだ(The Bitch Is Dead!)」

鉄の女サッチャー女史の決めセリフ"There is no alternative."って、

直訳すれば、確かに、安倍ちゃんの「この道しかない」なんだけど、

意訳すれば、土井さんの「ダメなモノはダメ」と基本的には同じだわな(笑)。

日本エレキテル連合の「ダメよ~、ダメダメ」にも近いが。

 

平成25年6月11日 世界経済フォーラム JAPAN Meeting オープニング・セッション | 平成25年 | 総理の演説・記者会見など | 記者会見 | 首相官邸ホームページ

今年は、世界から偉大な指導者が消えてしまいましたね。

マーガレット・サッチャーのことです。
There is no alternativeサッチャー首相の、口癖でした。
TINAと、頭文字をとった四文字言葉まで、有名になりました。
私も、同じです。これ以外の道は、ありません。TINAといつも思って、やっています。 

 

アベノミクスは【リベラル左翼】である(その5)~安倍ちゃん金融緩和VSレーガン金本位制。 - 在日琉球人の王政復古日記

の続き。

 

さて一番重要なのは、安倍ちゃんのアベノミクスも、サッチャーサッチャリズムも、同じ「アベノミクス第3の矢=成長戦略」に当たる部分である。

なぜなら、安倍ちゃんのデフレ退治でも、サッチャーのインフレ退治でも、最終的に経済成長を目指すということでは同じだからだ。

しかし、安倍ちゃんとサッチャーの2人の間で最も異なるのも、この「第3の矢」である。

 

理念としての「第3の矢」は同じでも、「実行してない/できない者」と「強行した者」の違いだ。

 

発言はともかく、現実の安倍ちゃんは、第3の矢を、ほとんど何もやっていない。できていない。

なぜなら、「第3の矢=成長戦略=構造改革規制緩和=自由競争」をホンキでやったら、消費税を上げるよりも激しい苦痛を国民の大部分に与えてしまうからだ。

 

しかし、サッチャーは、英国民の痛みを省みず、「第3の矢」に該当する政策をこそ、率先して強行した。

英国民にとってのサッチャーは、良いも、悪いも、「第3の矢」の記憶である。

 

サッチャーは、電気、水道、ガス、通信、鉄道、航空など国営部門を徹底して民営化した。日本の国鉄民営化=JR、電電公社民営化=NTT化、郵政民営化=JPは、全てサッチャーがお手本だ。

 

成長産業である金融部門において、市場を外国資本に開放し自由競争に任せた。そのお陰で低迷していたイギリス金融市場は復活を遂げる。

しかし、ハンディキャップなしのガチンコ勝負で、外国資本が勝ち、イギリス資本が敗退・買収されて、場所はロンドンだが、元気なのは外国企業・外国人ばかり、という「ウィンブルドン現象」を引き起こした。

 

成長の止まった、お荷物な古い産業を、保護せず、見殺しにした。特に象徴的なのは石炭産業だった。

サッチャーの麻酔なしの外科手術で、確かにイギリスの産業構造は「改善」した。

しかし、かつてのイギリスを支えた炭鉱は次々と閉鎖に追い込まれた。炭鉱はほとんどが地方にある。そしてその地域の経済を支える生命線だった。つまり炭鉱閉鎖は、単なる産業構造の転換以上に、地方共同体の崩壊を意味したのである。

 

「第3の矢」をマジメに考えれば、安倍ちゃんのもう一つの政策「地方創生」の正反対になるのは確実である。当然TPPも賛成になる。所得格差、地域格差も広がるだろう。経済合理性のある大都市圏が栄えて、経済合理性の無い地方は切り捨てになるに決まってる。

逆に「地方創生」とは、経済合理性の無視であり、「第3の矢」の反対である。採算の取れない地方経済に、無駄な資金が流れ、どんどん財政赤字が膨らんでいく。

 

「第3の矢」も、「地方創生」も、どっちが100%最高!ではない。

どっちも地獄の釜の口なのだ。

といって、どっちもやらないのも地獄への下り坂である。

つまりナニをやろうが、やらなかろうが、未来には地獄が待っている。

 

そしてサッチャーの辞書には、経済合理性の無い「地方創生」の文字は無かった。

サッチャー時代、イギリスの地方都市はどんどん「夕張」化していった。

 

「この道しかない」と言いながら、ビビった安倍ちゃんは「この道」の手前で足踏みしている。しかし鉄の女はこのケモノ道を突き進んだ。

 

その結果、彼女が死んだ時、アメリカや日本の保守派は彼女の功績を讃えたが、イギリス国内の少なからぬ人々はこう反応した。

 


Liverpool fans pre-match away at Wigan 2013 Thatcher song

 


'Ding Dong the Witch is Dead', Trafalgar Square, 13 April 2013

 


Thatcher death: Miners say 'she killed it all'

 

地方都市の市民、元炭鉱町の住人、ロンドンの低所得者たちは、

「この道しかない(There Is No Alternative.)」どころか、

「クソババアが死んだ(The Witch/Bitch Is Dead!)」と歓喜したのである。

 

サッチャーが死んで、地獄が民営化されました」

「地獄の業火の内、すでに3ヶ所が廃炉です」

「サタンはサャッチャーを天国へ追い出そうとして、民営化に反対する天使に拒否されました」

「悪魔が失業給付に行列しています」

みたいなジョークが飛び交った。

 

ここで、安倍ちゃんが大嫌いなリベラル派は、想像してみよう。

今から30年後、2050年にすでに政界を引退している安倍ちゃんが天寿を全うしたとして、あなたたちは、歓喜のあまり街に繰り出して輪になって踊るだろうか?

 

マクロで見れば、世界史全体で考えれば、数億人の自由を奪っていたソ連共産主義の息の根を止め、世界全面核戦争の恐怖を終わらせた、間違いなく歴史の功労者であったサッチャーも、

ミクロで見れば、イギリス庶民の立場に立てば、自由市場経済の名の下、祖父の代からの収入とプライドであった炭鉱仕事を奪い、故郷をゴーストタウンに変え、住み慣れた家から追い出した、庶民の家族の歴史を激変させた張本人なのである。

 

かつてビートルズも生まれ、イギリス産業革命の中心でもあったリバプールという街は、20世紀後半は経済合理性を失い、サッチャーの「第3の矢」によって見捨てられた。

サッチャーの死を喜んでいるリバプールサッカーファンは10代20代であって、生まれる前のサッチャー時代を直接は知らないはずなのだ。しかし自分たちの街の現状を、そうなった「第3の矢」を、彼らは知っているのである。

 

サッチャー時代の前と後では、イギリスの社会風俗も変わった。

当時は、大西洋のはるか向こうのアメリカ、他の国の話だったはずの、ヘロインだのコカインだの麻薬が急速にイギリス、特に失業者や若者に蔓延し始める。

サッカーファンのヤクザ化「フーリガン」の急増もこの時代である。

昨今のスコットランドの独立騒動も、この時代のロンドン政府の地方(スコットランド)切り捨て、サッチャリズムへの怨念が出発点にある。

 

イギリス映画にも「アンチ・サッチャー映画」というジャンルができた。 

  

トレインスポッティング」1996年 


トレインスポッティング 予告編

 

「ブラス!」1996年 


Brassed Off! (Trailer)

 

フル・モンティ」1997年 


フル・モンティ (The Full Monty)

 

リトル・ダンサー」2000年 


リトルダンサー

 

フットボール・ファクトリー」2004年


The Football Factory (2004) Official Trailer #1 - British Movie HD

 

Vフォー・ヴェンデッタ」2005年


『V・フォー・ヴェンデッタ』日本版劇場予告編

  

「THIS IS ENGLAND」2006年 


This Is England - trailer

 

「パレードへようこそ」2014年


『パレードへようこそ』予告編

 

サッチャーに比べれば、安倍ちゃんなんて、アマアマの根性ナシだ。

良いも、悪いも、ホンキの政治とはここまで憎まれる。

良いも、悪いも、これが歴史に残る政治家というものだ。

  

ダイアナ戦争~エリザベス女王VS労働党首相~映画「クィーン」BS朝日2014/11/10(月)19:00-20:54 - 在日琉球人の王政復古日記

 

911映画「ラブ・アクチュアリー」(2003年)~アルカイダ、ブッシュ、ブレアを批判するイギリスのリベラル。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

英国元首相ブレア映画3部作「クィーン」「ラブ・アクチュアリー」「ゴーストライター」~坂本龍馬も、安倍の祖父も、クネのアボジも。 - 在日琉球人の王政復古日記

 

トリレンマ映画「パレードへようこそ」(2014年)その1~[ #LGBT ]VS[サッチャー]VS[ラストベルト #Brexit トランプ大統領] - 在日琉球人の王政復古日記

 

トリレンマ映画「パレードへようこそ」(2014年)その2~[移民]VS[サッチャー #TPP ]VS[EU離脱 #Brexit トランプ大統領] - 在日琉球人の王政復古日記

 

トリレンマ映画「パレードへようこそ」(2014年)その3~[ #LGBT 移民]VS[ #TPP ]VS[トランプ大統領 ラストベルト ポピュリズム] - 在日琉球人の王政復古日記